においがわからない、だらしなくなった…それ、認知症の初期サインかもしれません
2026.05.05
健康について
「最近、お父さんがコーヒーの香りに気づかなくなった」。 「お母さんがおしゃれに無関心になってきた」。 そんな小さな変化を感じたことはありませんか。
実はこれらのサイン、認知症の初期に現れる変化として注目されています。物忘れよりも先に現れることも多く、気づきにくいからこそ、知っておく価値があります。
においの変化・身だしなみの乱れ・外出頻度の低下。 この3つのサインを、理学療法士の視点から解説します。
💡 この記事について
本記事は認知症の初期サインに関する一般的な健康情報をお伝えするものです。気になる変化があれば、まず専門医や地域包括支援センターへご相談ください。
目次
1. 認知症の現状——「他人ごと」ではなくなっている
2. サイン① においがわからなくなる——嗅覚と脳の深い関係
3. サイン② 身だしなみを気にしなくなる——前頭葉の変化が現れる場所
4. サイン③ 外出頻度が減る——引きこもりは脳を加速度的に衰えさせる
5. 3つのサインが重なるとき——家族が取るべき行動
6. よくある質問(FAQ)
7. まとめ
認知症の現状——「他人ごと」ではなくなっている

2024年に内閣府が最新の推計を公表しました1。 2025年時点で、65歳以上の認知症患者数は約471万6000人とされています。
さらに2030年には523万人、2040年には584万人と増加が見込まれています。
認知症の「一歩手前」である軽度認知障害(MCI)も深刻です。 2040年には612万人に達すると推計されています2。
認知症とMCIを合わせると、65歳以上の3人に1人が認知機能に関わる症状を持つ計算になります。
さらに認知症に関わる社会的コストも膨大です。 医療費・介護費・家族の無償介護を合算すると19兆4000億円です3。 2025年時点の推計値です。
これは国の年間所得税収入に匹敵する金額です。
認知症は、もはや誰もが直面しうる「社会全体の課題」です。
だからこそ大切なのが、早期発見です。
「物忘れが増えた」という典型的なサインよりも、実はもっと早い段階で現れる変化があります。
それが今回ご紹介する3つのサインです。
サイン① においがわからなくなる——嗅覚と脳の深い関係
においの情報が「記憶の中枢」に直結している
私たちがにおいを感じるとき、その情報は他の感覚とは異なる特別なルートをたどります4。
視覚や聴覚の情報は一度「視床」という中継地点を経由してから脳へ届きます。
ところがにおいの情報は、嗅球から直接「嗅内皮質(きゅうないひしつ)」へと届きます。
この嗅内皮質は、記憶を司る海馬のすぐそばに位置しています。
つまり、においの変化は脳の記憶領域と直結しているのです。
アルツハイマー病は「においの場所」から始まる
アルツハイマー型認知症では「タウ」という異常タンパク質が脳に蓄積します4。 このタウが神経細胞を壊していきます。
研究によると、このタウによるダメージは嗅内皮質から海馬へと広がっていくと考えられています。
そのため、記憶の障害が現れるより前に、嗅覚の低下が起きる可能性があります。
レビー小体型認知症でも同様です。
レビー小体は嗅球にも沈着します。 そのため、早期から嗅覚障害が生じやすいとされています5。
手足のふるえや歩行障害が現れる何年も前から、においに鈍くなるケースが報告されています。
嗅覚低下は認知症リスクを高める指標
においを「何のにおいか」と当てる能力(同定能)に着目した研究があります。 同年代の平均以下の高齢者は、5年後にMCIを発症する確率が約50%高まると報告されています6。
別の調査でも、嗅覚が平均以下の高齢者はMCIの発症率が約50%高くなると報告されています5。
なお加齢による嗅覚低下は、男性では60代、女性では70代から始まるとされています。
金沢医科大学の調査によると、60歳以上の約6割に嗅覚低下がみられます5。 しかし、7割の人は「自分の嗅覚は落ちていない」と回答していました。
「においに気づかない」こと自体に気づきにくい、というのが怖いところです。
家族が気づける「においのサイン」
以下のような変化が気になり始めたら、注意が必要かもしれません。
- 以前は好きだった食べ物に「味が薄い」と言うようになった
- ガスのにおいや焦げた臭いに気づかなくなった
- 体臭や口臭に本人が気づかなくなってきた
- 「においがしない」ではなく「何のにおいかわからない」と言う
「においはするけど、何のにおいかわからない」という訴えに注意が必要です。 これは嗅覚の同定能力が低下しているサインかもしれません。
においの変化に気づいたら、年齢のせいだと決めつけず、一度医師に相談してみることをお勧めします。
📖 関連記事: 歩幅が狭くなったら黄色信号!認知症リスクと歩行の科学的関係【2026年版】
サイン② 身だしなみを気にしなくなる——前頭葉の変化が現れる場所

「おしゃれ」は前頭葉が支えている
身だしなみを整えるという行為は、一見シンプルに見えて、実は複雑な脳の働きが必要です。
「今日は外出するから整えよう」という計画立案。
「他者からどう見えるか」という社会的判断。
「前回と今回でどちらが清潔か」という比較。
これらはすべて「前頭葉」の機能です。
前頭葉は、理性的な行動や社会性を担う脳の司令塔とも言えます。
認知症の種類によっては、この前頭葉が早期から影響を受けます。
前頭側頭型認知症では身だしなみの乱れが初期症状
前頭側頭型認知症は、脳の前頭葉と側頭葉が萎縮することで発症する認知症です7。
アルツハイマー型認知症と異なり、物忘れよりも先に「人格・行動・社会性」の変化が現れます。
発症は50〜60代という比較的若い年代に多いとされています8。 認知症患者の10人に1人が前頭側頭型認知症といわれています。
この疾患の初期に現れやすい行動の変化として、次のようなものが知られています。
- 他者からどう見られるかへの無関心
- 衛生観念の低下(入浴・洗髪をしなくなる)
- 同じ服を着続けることへの抵抗感がなくなる
- 自発性の低下(何もする気が起きなくなる)
本人に「自分が変わった」という自覚がないことも多いため、周囲の家族が気づくことが非常に重要です。
アパシー(意欲低下)という視点
アルツハイマー型認知症でも注意すべき症状があります。 「アパシー(無気力・無関心)」は、初期から現れやすいことが知られています。
アパシーとは、単なる「やる気がない」状態ではありません。
感情の起伏が乏しくなり、以前は楽しんでいたことに興味を示さなくなる状態です。
身だしなみへの無関心も、このアパシーの一側面として現れることがあります。
理学療法士の視点から——「ADL(日常生活動作)の変化」として見る
理学療法士(PT)の臨床の場では、身だしなみの変化を「ADLの変化」として丁寧に観察します。
身だしなみを整えるためには、手先の細かい動作(ボタン・ファスナー・整髪)が必要です。
こうした動作が難しくなった場合、二つの原因が考えられます。 認知機能の低下と、手指の巧緻性(こうちせい)の低下が重なっている可能性があります。
「だらしなくなった」と単純に捉えるのではなく、「なぜできなくなったのか」という視点が大切です。
家族が気づける「身だしなみのサイン」
- 以前はおしゃれだったのに、同じ服を何日も着続けるようになった
- 入浴の頻度が極端に減った
- 髪や爪のケアをしなくなった
- 「別にいい」「どうでもいい」という言葉が増えた
- 他者の視線や評価を気にしなくなった
こうした変化が数週間以上続く場合、うつ状態も含めて専門医に相談することが勧められます。
サイン③ 外出頻度が減る——引きこもりは脳を加速度的に衰えさせる
外出しなくなることで起こる「2つの悪循環」
外出頻度の低下は、脳と身体の両方に悪影響をもたらします。
社会的孤立や孤独感が認知症リスクを高めることは、国内外の研究で示されています9。 2025年の学術論文でも、その関連性が改めて確認されています。
社会的孤立による脳への刺激の減少が長期化すると、認知症の発症リスクが高まるとされています。
さらに、外出しなくなることで「廃用症候群(はいようしょうこうぐん)」のリスクも高まります。
廃用症候群とは、身体を使わないことで機能が低下する状態です。 筋力・心肺機能・骨密度が落ち、さらに動けなくなるという悪循環を招きます。
認知機能の低下と身体機能の低下は互いに影響し合います。 加速度的に状態が悪化していく——これが現場で日々目にする現実です。
📖 関連記事: フレイル・プレフレイルとは?気づいていない人が多い虚弱の前兆サイン【2026年版】
「外出が面倒」なのか「外出が怖い」のか
外出頻度が減る背景には、さまざまな理由が考えられます。
認知症の初期では、次のような理由から外出を避けるようになることがあります。
- 道に迷うことへの不安(見当識の低下)
- 人前でうまく話せないことへの恥ずかしさ
- お金の計算や買い物手順への不安
- 疲れやすくなった(エネルギー低下)
- 前述のアパシーによる自発性の低下
「面倒だから行かない」と「怖いから行けない」では、意味がまったく異なります。
さりげなく理由を聞いてみることが、早期発見の糸口になることがあります。
認知症基本法が示す「社会参加の重要性」
2024年1月、「認知症基本法」が施行されました10。 認知症の人が尊厳を持ち、希望を持って暮らせる社会の実現を目指す法律です。
この法律の根底には、「外に出てつながることが認知症の人の生活の質を守る」という考え方があります。
社会参加を続けること自体が、認知機能の維持に貢献するとされています。
📖 関連記事: 社会参加の重要性。自分らしく生きるために
家族が気づける「外出のサイン」
- 以前は欠かさなかった買い物・散歩・趣味の外出が減った
- 友人・知人との約束を断るようになった
- 「疲れた」「面倒」という言葉が増えた
- 外出時に迷子になったことがある
- 帰宅後に何をしてきたか話せなくなってきた
3つのサインが重なるとき——家族が取るべき行動

まず「否定しない」ことが大切
家族がサインに気づいても、「まさかそんなはずがない」と否定したくなる気持ちは自然なことです。
しかし、早期発見・早期対応が、その後の経過に大きな差をもたらすことが知られています。
本人を責めたり、無理に変えようとするのではなく、まず「最近どう?」と話しかける関係性を保つことが大切です。
かかりつけ医への相談が第一歩
気になるサインが複数続くようなら、まずはかかりつけ医に相談しましょう。
必要に応じて、認知症専門医(神経内科・精神科・老年内科)や、地域包括支援センターへ紹介してもらえます。
地域包括支援センターは、認知症に関する相談を無料で受け付けています。
お住まいの市区町村の窓口、または厚生労働省の「認知症コールセンター」でも相談可能です。
軽度認知障害(MCI)のうちに介入することの意義
軽度認知障害(MCI)は、認知症と健常の中間にあたる状態です。
研究によると、MCIの方の70〜80%は5年以内に認知症へ進行する可能性があるとされています3。
一方で、20%の方は健常に戻る可能性があることも報告されています。
この段階では、リハビリ・生活習慣の見直し・社会参加が重要です。 進行を遅らせる可能性があると考えられています。
理学療法士のサポートが役立つのも、まさにこの段階です。
よくある質問(FAQ)
Q1. においがわからなくなったら必ず認知症ですか?
いいえ、嗅覚障害の原因は認知症だけではありません。副鼻腔炎・アレルギー性鼻炎・風邪の後遺症・加齢など、さまざまな要因が考えられます。ただし、他の原因が見当たらない場合や複数のサインが重なる場合は、専門医への相談をお勧めします。
Q2. 身だしなみの乱れはうつ病との見分けが難しいですか?
はい、認知症の初期症状とうつ状態は重なる部分があります。どちらも専門医による評価が必要です。うつ病は適切な治療で改善が期待できることが多いため、早めの受診が勧められます。
Q3. 外出頻度が減ること自体が認知症を悪化させますか?
社会的孤立が認知症発症リスクを高めることは研究で示されています。外出や社会参加を続けることは、認知機能の維持に役立つ可能性があると考えられています。無理強いにならない範囲で、少しずつ外に出る機会を増やすことが望ましいとされています。
Q4. 若い人(50〜60代)でも今回のサインは当てはまりますか?
はい、前頭側頭型認知症などは50〜60代での発症が多いとされています。若年性認知症は少数派ですが、油断はできません。 身だしなみの変化・無関心・外出減少などのサインは、若い年代でも現れることがあります。気になる変化があれば年齢に関係なく相談することが勧められます。
Q5. 家族が気づいても、本人が受診を拒否する場合はどうすれば?
特に前頭側頭型認知症では、本人に「病気の自覚がない」ことが多く、受診を拒否するケースもあります。無理に連れて行こうとするのは逆効果になることもあります。 まず家族だけで地域包括支援センターや専門医に相談し、アドバイスをもらうことをお勧めします。
Q6. リハビリで認知症の進行を遅らせることはできますか?
MCI(軽度認知障害)の段階からの介入が注目されています。 運動療法・認知活動・社会参加の維持が、認知機能低下を遅らせる可能性があるとする研究があります。ただし確実に進行を止められるものではなく、あくまでリスク低減の可能性として捉えることが重要です。
まとめ
今回ご紹介した3つのサインがあります。 においの変化・身だしなみの乱れ・外出頻度の低下です。 いずれも「記憶が悪くなった」より前に気づける可能性があります。
大切なのは、「年のせいかな」と見過ごさないことです。
家族が日常の小さな変化に気づき、専門家につなぐことが早期発見への第一歩になります。
認知症は誰もがなりうる身近な問題となっています。
しかし早期発見で、その後の経過に大きな差が生まれることが期待されています。 適切なサポートにつなぐことが重要です。
気になる変化があれば、まずはかかりつけ医や地域包括支援センターへご相談ください。
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免責事項
記事の目的と性質
本記事は、認知症の初期サインに関する一般的な健康情報を提供することを目的としています。理学療法士の専門的視点から、科学的根拠に基づいた情報をわかりやすく解説していますが、以下の点にご注意ください。
本記事の限界
本記事の情報は、あなた個人の症状や状態に対する診断・治療を提供するものではありません。記事内容は医療行為や医学的助言ではなく、一般的な情報提供です。本記事の情報のみに基づく自己判断や自己対応は、適切な医療機会の遅れにつながる可能性があります。
医療機関受診の推奨
気になる変化が続いている場合、症状が悪化している場合、日常生活に支障が出ている場合、持病や既往歴がある場合は、必ず医療機関を受診してください。
情報の正確性について
本記事は2026年4月時点の最新情報に基づいて作成されており、信頼できる医学的根拠や公的ガイドラインを参照しています。医学・医療情報は常に更新されるため、将来的に内容が変更される可能性があります。
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参考文献
1. 内閣府 認知症施策推進関係者会議(第2回). 認知症及び軽度認知障がいの有病率並びに将来推計に関する研究報告書. 内閣官房, 2024.
2. doctormate. 2050年には認知症患者約600万人に 認知症施策推進関係者会議で最新データ公表. 2024(2026年1月更新).
3. 厚生労働科学研究. 日本における認知症の社会的コスト. 2025年時点推計値(19兆4000億円).
4. おいまつクリニック. 認知症と嗅覚. 2025.
5. 木戸みみ・はな・のどクリニック. 嗅覚について〜老化との関係. 2021.
6. Devanand DP, et al. Olfactory deficits in patients with mild cognitive impairment predict Alzheimer’s disease at follow-up. Am J Psychiatry. 2000;157(9):1399-405.
7. 難病情報センター. 前頭側頭葉変性症(指定難病127). 厚生労働省.
8. MSDマニュアル家庭版. 前頭側頭型認知症. 改訂2025年2月.
9. 下田有紀, 浦上克哉. 認知症と社会的孤立・孤独. BRAIN and NERVE. 2025;77(2):127-132.
10. 政府広報オンライン. 知っておきたい認知症の基本. 内閣府, 2025.
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