物忘れが増えてきた…それって普通の加齢?理学療法士が教える原因と改善策【2026年版】
2026.05.03
健康について
「最近、人の名前がすぐに出てこない」「鍵をどこに置いたか忘れる回数が増えた」。そんな経験が増えてきたと感じていませんか。
物忘れは加齢とともに誰にでも起こる自然な変化ですが、「もしかして認知症の始まり?」と不安になる方も少なくありません。
この記事では、物忘れの4つの原因を整理します。「加齢の物忘れ」と「認知症の前兆」の違いも丁寧に解説します。日常生活の中で取り組める改善策も、具体的にご紹介します。2026年4月時点の最新情報に基づいて作成しています。
💡 この記事について
本記事はセルフケアの情報を含みます。持病がある方・症状が強い方は、必ず医療機関にご相談のうえ実践してください。
目次
1. 物忘れとは何か?脳の中で何が起きているのか
2. 物忘れの主な4つの原因
3. 「加齢の物忘れ」と「認知症の前兆」はここが違う
4. 理学療法士が勧める物忘れ改善の5つのアプローチ
5. よくある質問(FAQ)
6. まとめ
7. 免責事項
8. 参考文献
物忘れとは何か?脳の中で何が起きているのか

記憶は「記銘・保持・想起」の3段階で成り立っています。「記銘」は情報を取り込む段階、「保持」は記憶をしまっておく段階、「想起」は必要なときに思い出す段階です。物忘れは主に「想起」がうまくいかない状態です。
脳の中で記憶を司る中心的な部位は「海馬(かいば)」です。海馬は新しい情報を短期記憶から長期記憶へと移す役割を担っています。加齢や生活習慣の乱れによって、この海馬の働きが低下すると物忘れが増えるとされています。
また、脳は睡眠中に老廃物を洗い流す「グリンパティック系」と呼ばれる排出システムを持っています2。この仕組みが正常に機能することで、脳がリフレッシュされ記憶の定着が促されます。睡眠が浅いと、この洗浄機能が低下することがわかっています。
物忘れの主な4つの原因
物忘れの原因は大きく4つに分けられます。自分に当てはまるものを確認してみましょう。
① 加齢による変化
脳は20歳台をピークにゆっくりと変化していきます。50歳前後から認知機能の低下が徐々に現れ始め、60歳台以降に個人差が広がるとされています。これは病気ではなく、自然な老化の一部です。加齢による物忘れは「思い出せないけど、ヒントをもらえば思い出せる」という特徴があります。
② 睡眠不足・睡眠の質の低下
睡眠中、脳は記憶を整理・定着させています。また、国立長寿医療研究センターによれば、睡眠中に脳細胞の隙間が広がり、脳脊髄液が老廃物を洗い流す効率が上がるとされています2。睡眠が不足すると、この記憶定着と老廃物除去の両方が滞ります。慢性的な睡眠不足は、記憶力低下の大きな要因の一つです4。
③ ストレス・疲労
強いストレスや慢性的な疲労は、前頭葉(注意・判断を担う部位)の機能を低下させます。情報を一時的に保持しながら処理する「ワーキングメモリ(作業記憶)」も影響を受けます。「名前がすぐ出てこない」「何をしようとしたか忘れる」という物忘れは、ストレスや疲労が原因のケースも多いのです。
④ 運動不足・生活習慣の乱れ
身体活動量の低下も、脳の認知機能に影響します。2023年の縦断研究では、運動量が少ない高齢者は、その後の認知機能低下リスクが有意に高いことが示されています4。逆に言えば、運動は物忘れ予防の重要な手段の一つです。また、偏った食事や喫煙・過度な飲酒も脳血管に悪影響を与え、認知機能の低下につながる可能性があります。
「加齢の物忘れ」と「認知症の前兆」はここが違う

物忘れが増えると「認知症では?」と心配になる方も多いです。ただ、加齢による自然な物忘れと、認知症の初期段階には明確な違いがあります。
加齢による物忘れの特徴
- ヒントをもらうと思い出せる
- 物忘れをしたという自覚がある
- 体験の一部を忘れる(例:昨日の夕食のメニューが出てこない)
- 日常生活や仕事にはほとんど支障がない
認知症の前兆(軽度認知障害・MCIを含む)の特徴
- ヒントをもらっても思い出せない
- 物忘れをしている自覚がない
- 体験そのものを忘れる(例:昨日食事をしたこと自体を忘れる)
- 同じ話を繰り返す、置き忘れが頻繁
- 日常生活や社会生活に支障が出始める
厚生労働省の最新推計(2024年)によれば、2022年時点の認知症高齢者数は約443万人(高齢者の12.3%)、軽度認知障害(MCI)を加えると高齢者の約3〜4人に1人に及ぶとされています1。MCIは認知症の一歩手前の状態ですが、適切な介入によって認知症への進行を遅らせることができると考えられています。上記の特徴に複数当てはまる場合は、早めに医療機関に相談することをお勧めします。
理学療法士が勧める物忘れ改善の5つのアプローチ
加齢による物忘れや、生活習慣が原因の物忘れは、日常の工夫で改善が期待できます。理学療法士の視点から、エビデンスに基づいたアプローチを5つご紹介します。
① 有酸素運動を週3〜5回取り入れる
身体を動かすことは、脳に直接働きかけます。有酸素運動は海馬の体積維持や脳血流の改善に関与するとされています。2025年のシステマティックレビュー(26件のRCTを対象)では、軽度認知障害(MCI)の高齢者において、有酸素運動が認知機能・睡眠の質・生活の質を有意に改善したと報告されています3。
推奨される運動の目安は、ウォーキングや軽い体操など「少し息が上がる程度」の有酸素運動を1回30〜45分、週3〜5回です。継続が大切ですので、まずは週2〜3回の散歩から始めてみましょう。
📖 関連記事:運動能力は何歳からでも上げられる|理学療法士が教える5つの鍛え方【2026年版】
② 睡眠の質を高める
睡眠は脳のメンテナンス時間です。就寝・起床時間を毎日できるだけ一定にすることで、体内時計が整い、睡眠の質が改善されやすくなります。また、就寝前1〜2時間はスマートフォンやパソコンの画面をなるべく避けると、脳が休息モードに入りやすくなります。
2025年の研究では、睡眠時間の短縮と身体活動量の低下が組み合わさると、認知機能低下のリスクがさらに高まることが示されています5。目安として、高齢者では6〜8時間程度の睡眠を確保することが一般的に推奨されています。
③ ストレスを上手に発散する
慢性的なストレスは脳の働きを抑制します。深呼吸・ストレッチ・趣味の時間など、自分なりのリフレッシュ方法を持つことが大切です。特に、軽い運動はストレスホルモンを低下させる効果も期待できるため、一石二鳥です。
④ 社会参加・人とのつながりを維持する
人と話したり、社会活動に参加したりすることは、脳に豊富な刺激を与えます。会話は言語・記憶・感情など複数の認知機能を同時に使う行為です。孤立した生活は認知機能低下のリスクを高める一因ともされています。趣味のサークルや地域活動など、外の世界とのつながりを積極的に保ちましょう。
📖 関連記事:社会参加の重要性。自分らしく生きるために
⑤ 日常生活の「記憶補助ツール」を活用する
「頑張って覚えよう」と力むより、メモ・カレンダー・スマートフォンのリマインダーを賢く使う方が実用的です。脳のワーキングメモリには限りがあります。ツールに頼ることで脳の負担を減らし、より大切なことに集中できるようになります。これは脳の「省エネ戦略」とも言えます。
フレイルと物忘れの意外な関係
「フレイル」とは、加齢による心身の機能低下が重なり、健康と要介護の間にある虚弱状態のことです。身体的な衰えと認知機能の低下は、切り離せない関係にあります。
筋力の低下・体重減少・活動量の低下といったフレイルのサインが出始めている方は、物忘れが増えやすい傾向があるとされています。身体を動かすことが減ると、脳への刺激も減り、認知機能の維持が難しくなるからです。体と脳は一体として考えることが大切です。
📖 関連記事:フレイル・プレフレイルとは?気づいていない人が多い虚弱の前兆サイン【2026年版】
よくある質問(FAQ)
Q1. 物忘れは何歳から増えてくるのですか?
個人差は大きいですが、一般的に50歳前後から少しずつ実感し始める方が多いとされています。脳の機能は20歳台をピークにゆるやかに変化していきますが、60歳台以降に「最近増えた」と感じる方が増える傾向があります。加齢は誰にでも起こる自然な変化であり、物忘れがあること自体は病気ではありません。
Q2. 脳トレは物忘れ予防に効果がありますか?
脳トレは特定の認知課題の成績を向上させる可能性はありますが、日常の物忘れを直接改善するかについては、まだ研究段階です。現時点では、有酸素運動・睡眠・社会参加といった生活習慣全体を整えることの方が、脳の健康維持には有効であると考えられています。脳トレを楽しめる方は継続する価値がありますが、それだけに頼らないことが大切です。
Q3. 物忘れがひどくなったら、何科を受診すればよいですか?
まずはかかりつけ医(内科・家庭医)に相談するのが最初のステップです。必要に応じて、脳神経内科・精神科・もの忘れ外来などへの紹介を受けることができます。特に、物忘れに自覚がない・日常生活に支障が出ている・症状が急に進んだと感じる場合は、早めの受診をお勧めします。
Q4. 更年期や睡眠不足が原因の物忘れは、改善しますか?
はい、原因が生活習慣や一時的なホルモン変動であれば、改善が期待できます。睡眠の質を整える・ストレスを軽減する・適度な運動を取り入れることで、多くの場合に物忘れの頻度が減ってくるとされています。ただし、症状が長期間続く場合や日常生活への支障が大きい場合は、医療機関への相談をお勧めします。
Q5. リハビリテーションは物忘れに役立ちますか?
リハビリテーションは、脳機能の維持・改善を目的とした運動療法や認知訓練を組み合わせたアプローチが可能です。特に自費リハビリでは、個人の状態に合わせたプログラムを組むことができます。2025年のネットワークメタ分析では、複合的な運動介入(有酸素運動+筋力訓練等)が認知機能低下の高齢者において特に有効であることが示されています6。気になる方は専門家への相談も選択肢の一つです。
まとめ
物忘れは、誰もが歳を重ねるとともに経験する自然な変化です。ただし、その原因や程度によって対処法は異なります。「加齢の物忘れ」と「認知症の前兆」の違いを理解したうえで、日常生活の中でできることから少しずつ取り組むことが大切です。
特に、有酸素運動・睡眠の質の改善・社会参加は、多くの研究でその効果が裏付けられています。薬に頼らず、生活習慣から脳の健康を守ることは、理学療法士が専門とする分野でもあります。一人で抱え込まず、気になることがあれば専門家に相談してみてください。
免責事項
記事の目的と性質
本記事は、物忘れ・認知機能に関する一般的な健康情報を提供することを目的としています。理学療法士の専門的視点から、科学的根拠に基づいた情報をわかりやすく解説していますが、以下の点にご注意ください。
本記事の限界
- 個別診断の代替不可:本記事の情報は、あなた個人の症状や状態に対する診断・治療を提供するものではありません。
- 医療行為ではない:記事内容は医療行為や医学的助言ではなく、一般的な情報提供です。
- 自己判断のリスク:本記事の情報のみに基づく自己判断や自己治療は、症状の悪化や健康被害につながる可能性があります。
医療機関受診の推奨
以下の場合は、必ず医療機関を受診してください。
- 物忘れの自覚がなく、周囲から指摘される場合
- 日常生活や仕事に支障が出ている場合
- 症状が急に進んだと感じる場合
- 持病や既往歴がある場合
情報の正確性について
本記事は2026年4月時点の最新情報に基づいて作成されており、信頼できる医学的根拠や公的ガイドラインを参照しています。医学・医療情報は常に更新されるため、将来的に内容が変更される可能性があります。
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参考文献
1. 厚生労働省. 認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究(九州大学 二宮利治教授). 2024.
2. 国立長寿医療研究センター. 睡眠と認知症. 国立長寿医療研究センター.
3. Shu W, Chen L, Qiu J, Kim SM. Effects of aerobic exercise interventions on cognitive function, sleep quality, and quality of life in older adults with mild cognitive impairment: a systematic review and meta-analysis. Front Neurol. 2025.
4. Kimura N, Sasaki Y, Masuda T, et al. Lifestyle factors that affect cognitive function–a longitudinal objective analysis. Front Public Health. 2023.
5. Ma M, Dong FW, Lan JY. Associations between sleep duration, physical activity, and cognitive impairment in older adults. Front Public Health. 2025.
6. Sun G, Ding X, Ma H, Zheng Z. Impact of exercise intervention on depression, anxiety, sleep and quality of life in patients with cognitive impairment: a systematic review and network meta-analysis. Front Psychiatry. 2025.
執筆者情報
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