なぜ大人はしゃがめない?赤ちゃんとの差を理学療法士が検証
2026.06.22
豆知識
「その場で、深くしゃがんでみてください」
かかとは床についたままですか。後ろにグラッと倒れませんでしたか。
実は今、深くしゃがめない大人がとても増えています。ところが、赤ちゃんや小さな子どもは平気な顔でしゃがみます。
かかとを床につけたまま、何分でも遊んでいる。あの姿勢、大人にはもう無理ではありませんか。
同じ人間なのに、この差は一体どこから来るのでしょう。理学療法士として多くの動作を見てきた経験から、その正体を解説します。
💡 この記事について:本記事は一般的な健康情報です。痛みや持病がある方は、自己判断せず専門家にご相談ください。
「しゃがめない大人」は本当に増えているのか?
「和式トイレでしゃがめない」。そんな声を、最近よく耳にします。子どもの頃はできていたのに、という方も多いはずです。
そもそも「しゃがむ」は、ただの足の曲げ伸ばしではありません。足首・膝・股関節・骨盤・体幹が、同時に連動する全身運動なのです。
なかでも深く関わるのが、足首の柔らかさです。研究では、しゃがめる人ほど足首を反らせる角度が大きいと報告されています1。
つまり「しゃがめるかどうか」は、体の状態を映す鏡。たかがしゃがみ、されどしゃがみ、なのです。
赤ちゃんは「完璧なしゃがみ」の天才だった

赤ちゃんのしゃがみ方を思い出してみてください。かかとはぴたりと床につき、背すじはすっと伸びています。
その姿勢のまま、おもちゃで何分も夢中で遊ぶ。大人がまねをすれば、たいてい後ろに倒れます。彼らはまさに、しゃがみの天才なのです。
では、なぜそんなに上手なのでしょう。理由のひとつは、関節がとても柔らかいこと。もうひとつは、毎日くり返ししゃがんでいることです。
立つ、座る、しゃがむ。これを一日に何度もこなしています。海外にも、大人になってしゃがむ生活が根づく地域があります。
そうした土地では、深くしゃがんで休む大人が珍しくありません。つまり、しゃがめるかは生まれつきより環境に左右されるのです。
ここで、現代の暮らしを思い浮かべてください。椅子に腰かけ、洋式トイレを使い、移動は車や電車。深くしゃがむ場面は、ほとんどありません。
昔は床に座り、かがんで作業していました。しゃがむ回数は、今よりずっと多かったはずです。
体は、使わない動きを少しずつ手放します。大人がしゃがめなくなるのは、その自然な結果ともいえるのです。
そもそも、しゃがむとき体で何が起きているのか?
原因の前に、しゃがむ動きを分解してみましょう。まず足首が曲がり、すねが前へ倒れ込みます。同時に、膝が深く折りたたまれます。
股関節も折れ曲がり、太ももがお腹へ近づく。さらに骨盤と背骨が、転ばないよう姿勢を微調整します。これらが同時に起きて、初めて深く沈めます。
どこか一か所でも止まると、すぐにバランスが崩れます。このとき、体の重心の位置がとても重要です。
重心が足の裏の範囲に収まれば、安定して沈めます。外れると、前や後ろに倒れそうになる。太もも前やお尻の筋肉も、ブレーキ役で働きます。
つまり「しゃがむ」は、全身が息を合わせる共同作業。だからこそ、一か所ほぐすだけでは変わりにくいのです。
なぜ大人はしゃがめなくなるのか?原因を理学療法士が解説

原因① 足首(足関節)の硬さ
深くしゃがむには、足首を大きく反らせる動きが要ります。この動きを、専門的には「背屈(はいくつ)」と呼びます。
背屈が足りないと、バランスを取ろうとかかとが浮きます。ある研究では、背屈が5度以下の人はなんと全員しゃがめませんでした2。
別の研究でも、しゃがめる人の足首は平均で約18度反りました1。一方、しゃがめない人は平均で約11度どまりです1。
足首が硬くなる背景には、運動不足や過去のけがもあります。ふくらはぎの筋肉が縮こまっていることも、よくある要因です。
原因② 股関節と骨盤のコントロール
原因は足首だけではありません。股関節が深く曲がらないと、上体が起きたまま沈めません。
さらに、骨盤を後ろに倒す動きも必要です。この動きは「後傾(こうけい)」と呼ばれます2。
後傾のタイミングが早すぎると、重心が後ろへずれます。その結果、後ろに転びそうになるのです。
デスクワークが長い方は、股関節が硬くなりがちです。座りっぱなしの生活は、お尻の筋肉も働きにくくします。
原因③ 全身の「運動連鎖」という視点
ここで大切なのが「運動連鎖」という考え方です。体の各部分は、鎖のようにつながって動いています。
どこか一か所が動きにくいと、別の場所が無理をします。たとえば足首が硬いと、その分を腰で補おうとします。すると、しゃがむたびに腰へ負担が偏ります。
現場でも、原因が一つに絞れない方が多い印象です。足首・股関節・骨盤・太もも前が、複数重なって見られます。
だから「足首だけ伸ばせば解決」とは限りません。体全体のつながりで見ていく視点が大切だと考えられます。
しゃがめないと、日常生活で何が起きるのか

「しゃがめなくても、生活には関係ない」。そう考える方は、決して少なくありません。でも、本当にそうでしょうか。
低い椅子から立つ。床の物を拾う。靴下をはく。どれも、しゃがむ動きと同じ仕組みを使っています。
トイレや浴槽の出入りも、まさにこの動作の連続です。階段を降りるときも、似た筋肉と関節を使います。子どもや孫と床で遊ぶのにも、しゃがむ力が要ります。
つまり、しゃがめなさは生活の不便さに直結します。日本整形外科学会も、立ち上がる力を重視しています3。
「立ち上がりテスト」は、下肢の筋力を調べる方法です3。立つ・歩く・座るは、移動機能の基本とされています3。
この機能が落ちると、自立した生活が難しくなります3。しゃがめないという小さな変化は、その入り口かもしれません。
しゃがむ力の低下が、転倒や腰の負担につながる理由
しゃがむ力の低下は、転倒のリスクとも関わると考えられます。深くしゃがめない人は、低い物を取るとき前かがみになりがちです。
前かがみの姿勢は、腰へ大きな負担をかけます。本来は、膝と股関節を曲げ、腰を守って持ち上げます。しゃがめないと、この「腰を守る動き」が使いにくくなります。
また、とっさにしゃがんで体を支える動きも取りにくくなります。つまずいたときの踏ん張りが、利かなくなることもあります。
小さな段差で、転んでしまう場面も考えられます。しゃがむ力は、こうして安全な暮らしを支えているのです。「ただしゃがめないだけ」と、軽く見ない方がよいでしょう。

しゃがむ力を取り戻すには?改善のヒント
まずは「しゃがめるか」セルフチェック
はじめに、今の自分の状態を知ることが第一歩です。足を肩幅に開いて、ゆっくりしゃがんでみましょう。かかとを浮かさず、深く沈めるでしょうか。
後ろに倒れそうなら、足首が硬いのかもしれません。上体が大きく前に倒れるなら、股関節が原因の可能性も。
ぐらつく場合は、壁や机に手を添えると安全です。痛みが出るときは、無理をせず中止してください。
足首・股関節を動かすセルフケア
まずは、硬くなった足首をやさしく動かしましょう。壁に手をつき、ふくらはぎを伸ばすだけでも刺激になります。1回20〜30秒を目安にしてください。
股関節は、足を前後に開いて体重を移す運動が手軽です。足腰を鍛えるなら「椅子スクワット」がすすめられています4。
椅子から立つ・座るをくり返す、安全な運動です4。膝への負担が小さく、太もも前の筋肉を鍛えられます4。
自重で行うときは、フォームにも気をつけましょう5。膝がつま先より前に出すぎないことが目安とされています5。
リハビリでは、しゃがむ動作そのものを使う方法もあります6。いずれも、痛みのない範囲でゆっくり行うことが大切です。
「動作そのもの」を練習する大切さ
ストレッチや筋トレは、もちろん役に立ちます。ただ、それだけでは生活の動きに結びつきにくいこともあります。体は、つながりの中で動きを覚えていくからです。
一か所だけでなく、全身のつながりで取り組むことが大切です。そうすると、立ち座りが楽になったと感じる方もいます。
たとえば、実際の椅子やトイレで立つ・座るをくり返す。生活に合った高さや環境で練習すると、効果を感じやすくなります。つまり「実際の動作を練習する」ことに意味があるのです。
よくある質問(FAQ)
しゃがめないのは、足首が硬いせいだけですか?
足首の硬さは、大きな要因のひとつと考えられています。ただし、原因はそれだけではないことが多いようです。
股関節の動きや、骨盤を倒すコントロールも関わります。体全体のつながりで確認していくとよいでしょう。
しゃがめないのは、年齢のせいで仕方ないのですか?
年齢による変化は、たしかに影響すると考えられます。しかし「仕方ない」と決めつける必要はありません。
動かす習慣によって、改善が期待できる場合もあります。不安があれば、専門家に相談すると安心です。
深くしゃがむと膝が痛いときは、どうすればいいですか?
痛みがあるときは、無理に深くしゃがまないでください。浅い範囲から、少しずつ試すほうが安全です。
痛みが続く場合は、医療機関の受診をおすすめします。自己判断で続けるのは避けましょう。
しゃがめないと、将来どうなりますか?
しゃがむ力は、立つ・座るなどの移動機能と関わります3。この機能が落ちると、生活の自立に影響しうるとされています3。
早めに気づき、動かす習慣を持つことが大切でしょう。小さな変化のうちに対策するのがおすすめです。
しゃがむ練習は、毎日してもいいですか?
痛みがなければ、こまめに動かすのはよいことです。ただし、痛みや強い張りがある日は休みましょう。
心地よい範囲を目安に、無理なく続けてください。回数よりも、続けやすさを大切にしましょう。
まとめ:しゃがめない自分と、どう向き合うか
大人がしゃがめないのは、生まれつきの才能差ではありません。足首・股関節・骨盤、そして運動連鎖の積み重ねです。
大切なのは、できない理由を正しく知ること。原因が分かれば、できることが見えてきます。
そしてその力は、トイレや入浴、立ち座りに直結します。派手なことではなく、生活そのものの動作が土台なのです。
こうした動きは、一人で続けるのが難しいこともあります。だからこそ、専門家と一対一で見てもらう価値があります。
人目を気にせず、安心できる環境でじっくり取り組む。無理のないペースで、生活の動作を練習し直していく。
その積み重ねが、毎日の暮らしを少しずつ楽にします。「しゃがめない」を、体を見直すきっかけにしてみてください。
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免責事項
本記事は、しゃがむ動作と下肢機能に関する一般的な健康情報を提供することを目的としています。理学療法士の専門的視点から、科学的根拠に基づいた情報をわかりやすく解説していますが、以下の点にご注意ください。
・個別診断の代替不可:本記事の情報は、あなた個人の症状や状態に対する診断・治療を提供するものではありません。
・医療行為ではない:記事内容は医療行為や医学的助言ではなく、一般的な情報提供です。
・自己判断のリスク:本記事の情報のみに基づく自己判断や自己流の運動は、症状の悪化や健康被害につながる可能性があります。
以下の場合は、必ず医療機関を受診してください。痛みや不調が続いている場合、症状が悪化している場合、日常生活に支障が出ている場合、持病や既往歴がある場合です。
本記事は2026年6月時点の情報に基づいて作成しており、信頼できる医学的根拠や公的情報を参照しています。医学・医療情報は常に更新されるため、将来的に内容が変更される可能性があります。
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参考文献
1. 山崎裕司ほか. しゃがみ込み動作に必要な足関節背屈角度. 高知リハビリテーション学院紀要.
2. 足関節背屈可動域および骨盤可動性がしゃがみこみ動作に及ぼす影響. 臨床スポーツ医学会誌, 2010.
3. 日本整形外科学会. ロコモONLINE 立ち上がりテスト.
4. 健康ネット. 安全かつ効果的に「足腰」を鍛える方法.
5. 厚生労働省. 自宅でできる筋力トレーニング(スクワット).
6. しゃがみ込み動作を用いた足関節背屈制限の改善方法. 理学療法学.
執筆者情報
本記事は、リハビリテーション病院や訪問リハビリでの治療経験を持つ理学療法士の視点で作成しました。日常生活の動作を取り戻すためのリハビリを専門としています。