噛む力と食いしばり|側頭筋が頭痛・肩こりを引き起こすしくみ【理学療法士が解説・2026年版】
2026.06.20
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💡 この記事について
本記事は一般的な健康情報の提供を目的としています。個人の症状や医療判断の代替となるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関を受診してください。
「なんとなく頭が重い」「肩が慢性的にこる」——そんな不調、顎から来ているかもしれません。
食いしばりや歯ぎしりは、睡眠中だけでなく日中も無意識に起こっています。それがこめかみの側頭筋を過緊張させます。頭痛や肩こりにつながることが、近年の研究で示されています1。
本記事では、理学療法士の視点から解説します。噛む力のメカニズム、全身への影響、セルフケアの考え方を2026年4月時点の情報でお伝えします。
目次
- 噛む力とは? 口の中で起きていること
- 食いしばり(ブラキシズム)とはどんな状態か
- 側頭筋とは? こめかみで起きていること
- 食いしばりが引き起こす全身への影響
- 理学療法士の視点:なぜリハビリが関係するのか
- セルフケアの考え方
- よくある質問(FAQ)
- まとめ
噛む力とは? 口の中で起きていること

「噛む力」は、私たちが思っている以上に大きな力です。
一般的に、成人男性の最大咬合力は約70〜80kg、女性は約50〜60kgとされています2。これは10kgの米袋を7〜8袋分、片手で持ち上げるほどの力に相当します。
実際に食事をするときは、この最大値の数分の一程度しか使いません。しかし食いしばりや歯ぎしりでは、この最大値に近い力が無意識のうちにかかることがあるといわれています。
噛む動作に関わる筋肉は主に4つです。
- 咬筋(こうきん):頬の外側にある、最も強力な閉口筋
- 側頭筋(そくとうきん):こめかみから耳の上に広がる扇状の筋肉
- 内側翼突筋(ないそくよくとつきん):顎の内側で口を閉じる筋肉
- 外側翼突筋(がいそくよくとつきん):顎を前に出す・口を開ける動作に関わる筋肉
これらをまとめて「咀嚼筋(そしゃくきん)」と呼びます。顎関節と咀嚼筋は密接に連動していて、どこか一部に過負荷がかかると全体のバランスが崩れやすくなります3。
食いしばり(ブラキシズム)とはどんな状態か
歯ぎしりや食いしばりは、医学的に「ブラキシズム」と呼ばれます。
大きく3つのタイプに分けられます。
- グラインディング:上下の歯をギリギリこすり合わせる(夜間に多い)
- クレンチング(食いしばり):歯をぐっと噛みしめる(日中・夜間ともに起こる)
- タッピング:歯をカチカチ鳴らす習癖
夜間のブラキシズムの出現頻度は8〜16%、日中のものを含めると8〜34%と報告されています2。つまり、少なくとも10人に1人は何らかの形でブラキシズムを抱えていると考えられています。
特に見落とされがちなのが「日中の食いしばり」です。
デスクワーク中やスマートフォン操作中——多くの方が気づかぬうちに上下の歯を触れ合わせています。上下の歯は本来、食事中以外は接触しないのが自然な状態です。
この習癖は「TCH(歯列接触癖)」と呼ばれます。わずかな力でも長時間続くため、咀嚼筋への累積負荷は非常に大きくなります4。
側頭筋とは? こめかみで起きていること

側頭筋は、耳の上から頭の側面に扇状に広がる大きな筋肉です。
試しに歯を噛みしめながらこめかみに手を当ててみてください。ピクッと動く感覚があるはずです。あれが側頭筋の収縮です。
側頭筋の役割は主に「口を閉じる(閉口)」と「顎を後ろに引く(後退)」です。
日本語でいう「こめかみ」は、英語でtempleと呼ばれます。側頭筋の英語名temporalmuscleも同じ語源です。「こめかみ」は側頭筋そのものを指す言葉といえます。
この側頭筋が過緊張すると、頭皮全体の緊張につながります。頭皮を覆う帽状腱膜という結合組織を介して、後頭部や額、さらには首の筋肉とも連動しているためです5。
また、側頭筋は目の疲労ともつながっています。画面を長時間凝視するとき、ピントを合わせるために側頭筋が補助筋として収縮することがわかっています。
「目が疲れるとこめかみが痛い」——この感覚、あなたにも心当たりがないでしょうか。
食いしばりが引き起こす全身への影響
食いしばりの影響は、口の中だけにとどまりません。
咀嚼筋の過緊張は、頭頸部の筋バランスを崩します。その結果、肩こりや頭痛、さらには姿勢の乱れにまで波及することがあります1, 3。
頭痛との関係
食いしばりや歯ぎしりによって咀嚼筋が慢性的に緊張すると、筋緊張型頭痛の一因になると報告されています3。
側頭筋が硬くなると、頭皮全体の血流が低下します。その結果、後頭部から頭全体が締め付けられるような痛みが起こりやすくなります。
肩こりとの関係
顎の筋肉は、首の筋肉と解剖学的につながっています。食いしばりで顎が緊張すると、頸椎(首の骨)のアライメント(配列)が乱れやすくなります。それが肩や背中の筋肉の緊張を引き起こす経路として考えられています1。
神戸大学病院の歯科口腔外科によると、咀嚼筋の過緊張が顎関節症や頭痛の一因とされています3。
姿勢への影響
理学療法士の分野では、顎関節と全身姿勢の関係が注目されています。
研究によると、側頭筋や咬筋などが緊張すると頸椎のアライメントが変化します。その結果、全身の姿勢制御にも影響が出ることが示されています1。
ブラキシズムのある人は、頭部が前方に偏位(前傾姿勢)しやすい傾向があることも報告されています。前傾姿勢が続くと食いしばりをさらに助長し、悪循環に陥りやすくなります4。
つまり「スマホ首→前傾姿勢→食いしばり→頭痛・肩こり」という連鎖が成立しやすい状態といえます。
顎関節症との関係
食いしばりが慢性化すると、顎関節内のクッション(関節円板)への負担が増加します。関節円板がずれると、開口時に「カクン」という音が鳴ります。また開口制限(口が開きにくい状態)が起こることもあります。これが「顎関節症」です。
日本顎関節学会によると、顎関節症の理学療法には物理療法と運動療法があります6。物理療法にはマッサージや温熱療法、電気刺激などが含まれます。運動療法にはストレッチや可動化訓練などがあります。
気になる症状がある場合は、歯科口腔外科や専門の医療機関に相談することをおすすめします。
理学療法士の視点:なぜリハビリが関係するのか

「顎の問題は歯医者へ」——それは正しいことです。しかし、リハビリテーションの視点からも重要な側面があります。
理学療法士が顎関節に関わる場面として、以下のようなケースが考えられます。
- 慢性的な肩こり・頭痛の原因として顎関節の緊張が疑われるケース
- 姿勢改善の介入で顎周囲筋の緊張も評価・アプローチするケース
- 脳卒中などの神経疾患後、嚥下や顎の動きにリハビリが必要なケース
近年の研究で、顎関節の機能障害が頸椎や肩の疼痛と密接に関係していることが報告されています1。
肩こりや頭痛のリハビリにおいても、顎周囲の筋緊張へのアプローチが症状緩和に貢献できる可能性があります。
「顎だけ」「肩だけ」でなく、頭頸部から体幹を一体として評価することがリハビリ専門職の基本的な姿勢です。
セルフケアの考え方
以下のセルフケアは、あくまでも一般的な情報として参考にしてください。痛みが強い場合や症状が続く場合は、必ず専門の医療機関を受診してください。
①「上下の歯を離す」意識を持つ
まず取り組みやすいのが、TCH(歯列接触癖)の改善です。
日中、ふとしたときに「歯が触れていないか」を確認してみてください。上下の歯は、食事中以外は2〜3mm程度の隙間があるのが自然な状態です。
モニターや冷蔵庫に「歯を離す」メモを貼るだけでも、意識づけに効果があるとされています。
②側頭筋・咬筋のセルフマッサージ
側頭筋のほぐし方の一例です。
- 指3本をこめかみに当てる
- 軽く噛みしめてピクッと動く部分を確認する
- 力を抜いた状態で、指の腹でゆっくり円を描く(1〜2分)
- 押して痛い場合は力を加減する
お風呂上りなど、体が温まっているときに行うと血流が促進されやすく、より効果的と考えられています。
③姿勢の見直し
前傾姿勢は食いしばりを助長します。デスクワーク中は、頭が体幹の真上に乗るよう意識しましょう。
モニターを目線の高さに合わせる、腰を立てて座る。こうした工夫が顎への負担軽減に役立つと考えられています。
④ストレスのコントロール
食いしばりの大きな要因のひとつがストレスです。
交感神経が優位になると筋肉全体が緊張しやすくなります。深呼吸・入浴・軽いウォーキングなど、リラックスを促す習慣が咀嚼筋の緊張緩和にも役立つとされています5。
ただし、これらのセルフケアはあくまで補助的なものです。顎の痛み・開口障害・頭痛が続く場合は、自己判断せず医療機関を受診してください。
よくある質問(FAQ)
Q. 食いしばりをしているかどうか、自分で確認できますか?
A. いくつかのサインで気づくことができます。次のサインが複数当てはまる場合、ブラキシズムの可能性が考えられます。朝起きたときに顎・頬が疲れている、こめかみが鈍く痛む、歯がしみる——こうしたサインが目安になります。自己判断は難しいため、歯科を受診して確認することをおすすめします。
Q. マウスピース(ナイトガード)は効果がありますか?
A. マウスピース(スプリント療法)は、睡眠中の過剰な咬合力から歯を守るために広く使われています。日本顎関節学会も治療の選択肢として紹介しています6。ただし、ブラキシズム自体を根本的に消失させるものではなく、症状の緩和・保護が主な目的です。歯科での診察のうえで検討してください。
Q. 子どもも食いしばりになりますか?
A. 子どもにもブラキシズムは起こります。成長期の歯ぎしりは乳歯から永久歯への交換に伴うものも多く、一時的なケースも少なくないとされています。しかし、頭痛・顎の痛みなど気になる症状がある場合は、小児歯科や口腔外科への相談をおすすめします。
Q. 顎関節症と肩こりは本当に関係しているのですか?
A. 関係しているとされています。咀嚼筋の緊張が頸椎のアライメントを乱し、肩周囲の筋肉に波及することが研究で示されています1, 3。ただし、肩こりの原因は多岐にわたります。「顎関節症が原因の肩こり」かどうかは、専門家による評価が必要です。
Q. 理学療法士に顎のことを相談できますか?
A. 理学療法士は運動器・神経疾患を専門としています。顎関節に直接アプローチするかは施設によって異なります。頭痛・肩こりの背景に顎の問題が疑われる場合、理学療法士と歯科が連携して対応するケースもあります。まずは主治医や歯科医師にご相談ください。
まとめ
噛む力と食いしばりは、口の問題だけではありません。
側頭筋を中心とした咀嚼筋の過緊張は、頭痛や肩こり、姿勢の乱れとして全身に波及する可能性があります。無意識の食いしばりが慢性的な不調の一因になっているケースも少なくないとされています。
「歯を離す」意識の実践、側頭筋のマッサージ、姿勢改善——これらのセルフケアは取り組みやすいものです。しかし、痛みや開口障害が続く場合は、専門の医療機関への受診が大切です。
「なんとなくだるい」「頭が重い」——顎を意識することで、不調の手がかりが見えることもあります。体は一つながりです。顎からの視点も、ぜひ持ち帰っていただければと思います。
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免責事項
記事の目的と性質
本記事は、噛む力・食いしばり・側頭筋に関する一般的な健康情報を提供することを目的としています。理学療法士の専門的視点から、科学的根拠に基づいた情報をわかりやすく解説していますが、以下の点にご注意ください。
本記事の限界
- 個別診断の代替不可:本記事の情報は、あなた個人の症状や状態に対する診断・治療を提供するものではありません。
- 医療行為ではない:記事内容は医療行為や医学的助言ではなく、一般的な情報提供です。
- 自己判断のリスク:本記事の情報のみに基づく自己判断や自己治療は、症状の悪化や健康被害につながる可能性があります。
医療機関受診の推奨
- 顎の痛みや開口障害が続く場合
- 頭痛・肩こりが慢性化している場合
- 症状が悪化している場合
- 日常生活に支障が出ている場合
- 持病や既往歴がある場合
以上に当てはまる方は、必ず医療機関を受診してください。
情報の正確性について
本記事は2026年4月時点の最新情報に基づいて作成されており、信頼できる医学的根拠や公的ガイドラインを参照しています。医学・医療情報は常に更新されるため、将来的に内容が変更される可能性があります。
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参考文献
1. 古泉貴章. 顎関節の理学療法. UGOITA PLUS, 2024.
2. Lobbezoo F, et al. Bruxism defined and graded: an international consensus. J Oral Rehabil. 2013;40(1):2-4.(URL未確認)
3. 神戸大学医学部附属病院 歯科口腔外科. 顎関節症から肩こりや頭痛が起こるか. 医局だより.
4. やまのうち歯科医院. 顎関節症と姿勢の関係とは?. 2025.
5. からだケアナビ. あなたの頭皮、ガチガチになっていませんか?. 2021.
6. 一般社団法人日本顎関節学会. 顎関節症の主な治療は. 日本顎関節学会.
執筆者情報
本記事は、理学療法士の専門的視点から作成しました。科学的根拠に基づいた信頼性の高い情報提供を心がけています。