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痛みが慢性化するのはなぜ?中枢感作のメカニズムを理学療法士が解説【2026年版】

2026.04.04

リハビリ

痛みが慢性化するのはなぜ?中枢感作のメカニズムを理学療法士が解説【2026年版】

「治療を受けているのに、なかなか痛みが良くならない」「ケガは治ったはずなのに、まだ痛みが続いている」

こうした悩みを抱えている方は、少なくありません。実は、日本の成人の約22.5%にあたる推計2,300万人以上が、慢性的な痛みを抱えているとされています(日本医療政策機構, 2023)。

痛みが長引く原因の一つに、「中枢感作」という現象があります。これは、脳や脊髄の神経が過敏になり、本来は痛くないはずの刺激まで「痛い」と感じてしまう状態です。

この記事では、理学療法士の専門的視点から、中枢感作のメカニズムと改善のためのアプローチを、2026年2月時点の最新情報に基づいて解説します。


💡 この記事について

この記事は一般的な健康情報を提供するものであり、個別の医学的診断や治療の代わりとなるものではありません。症状や不安がある場合は、必ず医療機関を受診してください。


目次

  1. そもそも「痛み」とは何か
  2. 痛みが慢性化する仕組み──中枢感作とは?
  3. 中枢感作が起こる原因
  4. 中枢感作が関わる代表的な症状
  5. 中枢感作へのアプローチ──理学療法士の視点から
  6. 今日からできるセルフケア
  7. こんなときは医療機関へ
  8. よくある質問(FAQ)
  9. まとめ

そもそも「痛み」とは何か

痛みのメカニズムを理解するために、まず基本的な仕組みを確認しましょう。

痛みは「脳」が作る信号

体のどこかをぶつけると「痛い!」と感じます。この痛みは、実はぶつけた場所で生まれるのではありません。

ケガをした部位の「侵害受容器」というセンサーが刺激をキャッチします。その信号が末梢神経から脊髄を通り、最終的に脳に届きます。脳がその信号を「痛み」として認識して、初めて「痛い」と感じるのです。

つまり、痛みとは「脳が作り出す体験」とも言えます。

2020年に改定された「痛みの定義」

国際疼痛学会(IASP)は2020年に、41年ぶりに痛みの定義を改定しました。新しい定義では、痛みは組織の損傷と必ずしも一致しないこと、個人の感情や過去の経験にも影響されることが強調されています。

この定義の改定は、「ケガが治っても痛みが続く」という現象を理解するうえで、とても重要な考え方です。

痛みには「ブレーキ」がある

私たちの体には、痛みを和らげる仕組みも備わっています。これを「下行性疼痛抑制系」と呼びます。

脳からセロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質が放出され、脊髄レベルで痛みの信号にブレーキをかけます。スポーツ選手が試合中にケガをしても痛みを感じにくいのは、この仕組みが強く働いているためと考えられています。


痛みが慢性化する仕組み──中枢感作とは?

ここからが本記事の核心です。「中枢感作」がどのようにして痛みを慢性化させるのか、わかりやすく説明します。

火災報知器にたとえると

中枢感作を理解するには、「火災報知器」のたとえが役立ちます。

正常な火災報知器は、実際に火災が起きたときだけ鳴ります。しかし、何度も火災が起きた建物の報知器は、感度が上がりすぎてしまうことがあります。料理の煙やちょっとした温度変化でも鳴ってしまう状態です。

中枢感作も、これと同じことが神経系で起こります。繰り返し痛みの信号が入力されることで、脳や脊髄の神経が「過敏モード」に切り替わります。その結果、本来は痛みを感じないような軽い刺激でも「痛い」と感じるようになるのです。

中枢感作の2つの特徴

中枢感作が起こると、大きく2つの特徴的な症状が現れます。

1. アロディニア(異痛症)

通常は痛みを感じない刺激で痛みが出る状態です。たとえば、服の縫い目が皮膚に触れるだけで痛い、軽く触れただけで強い痛みを感じるといった症状です。

2. 痛覚過敏

本来は軽い痛みですむ刺激に対して、過剰に強い痛みを感じる状態です。採血の針がわずかに刺さるだけで激痛を感じるなどの症状が該当します。

脊髄レベルで起こる変化

もう少し専門的に説明しましょう。

痛みの信号は、脊髄の「後角」という場所で中継されます。繰り返し痛みの信号が入力されると、この後角の神経細胞が興奮しやすくなります。

専門的には「ワインドアップ現象」と呼ばれ、同じ強さの刺激でも、繰り返されるうちに神経の反応がどんどん大きくなっていきます。やがて、痛みの信号がなくても神経が自発的に興奮するようになることがあります。

脳レベルで起こる変化

脊髄だけでなく、脳にも変化が起こります。

日本医療研究開発機構(AMED)の研究では、慢性痛によって脳内のグリア細胞(アストロサイト)が未熟化し、神経回路の再編成が起こることが確認されています。この再編成により、触れるだけで痛みを感じる状態が長期間続く可能性があることが明らかになっています。

また、慢性痛が不安やうつ症状を引き起こす脳内メカニズムも解明が進んでいます。北海道大学の研究グループは、慢性痛によって脳の「分界条床核」という部位の神経伝達に変化が生じ、持続的な不安症状につながることを報告しています。

痛みの「ブレーキ」も弱くなる

中枢感作では、先ほど説明した「下行性疼痛抑制系」の機能も低下します。

不安やストレス、抑うつなどのネガティブな情動が続くと、脳内のドパミン放出量が減少します。その結果、痛みのブレーキがうまく働かなくなり、痛みがさらに感じやすくなるという悪循環に陥ることがあります。


中枢感作が起こる原因

中枢感作はなぜ起こるのでしょうか。主な要因を見ていきましょう。

1. 急性痛の不十分な管理

ケガや手術後の痛みが適切にコントロールされないと、痛みの信号が長期間にわたって脊髄に入力され続けます。この持続的な入力が、中枢感作の引き金になることがあります。

早い段階で適切な痛みの管理を行うことが、慢性化を防ぐうえで重要とされています。

2. 心理的ストレス

不安、恐怖、怒り、抑うつなどの心理的ストレスは、中枢感作を促進する大きな要因です。

慢性痛を長年抱えている方では、うつ病や不安障害の併発率が2〜3倍高いという報告もあります。痛みが心理面に影響し、心理面の悪化がさらに痛みを強めるという悪循環です。

3. 睡眠の質の低下

質の良い睡眠は、神経系の修復と痛みの抑制に欠かせません。睡眠が不足すると、痛みに対する感受性が高まり、中枢感作が進行しやすくなる可能性があります。

4. 運動不足と恐怖回避行動

「痛いから動かない」という行動は、自然な反応です。しかし、過度に動かないでいると、筋力や柔軟性が低下し、さらに痛みが出やすい体になってしまいます。

これを「恐怖回避行動」と呼びます。痛みへの恐怖が運動を避けさせ、身体機能の低下がさらなる痛みを生むという悪循環です。


中枢感作が関わる代表的な症状

中枢感作は、さまざまな慢性痛の背景に関わっていると考えられています。

  • 慢性腰痛:3か月以上続く腰痛の35〜45%で中枢感作が関与しているとされます(Nijs et al., Lancet Rheumatol, 2021)
  • 線維筋痛症:全身の広範な痛みと疲労感が特徴で、中枢感作が主な原因とされています
  • 変形性関節症:関節の構造的変化だけでは説明できない痛みに、中枢感作が関わっている可能性があります
  • 慢性頭痛:特に片頭痛において中枢感作の関与が報告されています
  • 術後の遷延性痛み:手術後の痛みが長引くケースの15〜30%に中枢感作が関与するとされます

これらの症状に心当たりがある場合は、痛みの専門家(ペインクリニックや理学療法士など)への相談をおすすめします。


中枢感作へのアプローチ──理学療法士の視点から

中枢感作に対しては、「集学的(多角的)アプローチ」が有効であるとガイドラインでも推奨されています。理学療法士の視点から、効果が期待できるアプローチを紹介します。

1. 痛みの神経科学教育(ペインサイエンス教育)

まず重要なのは、「痛みの正しい理解」です。

「ケガが治っても痛みが続くのは、神経系の過敏化が原因であって、体が壊れ続けているわけではない」——このことを理解するだけで、痛みへの恐怖が軽減し、実際に痛みの強さが改善するケースが報告されています。

2021年のランダム化比較試験のメタアナリシスでは、痛みの神経科学教育により、痛みや運動への恐怖(運動恐怖症)が有意に改善したことが示されています(Nijs et al., 2021)。

2. 段階的な運動療法

中枢感作に対する運動療法の効果は、最新のエビデンスで強く支持されています。

2025年に発表されたネットワークメタアナリシス(249研究を統合)では、運動介入によって中枢感作の指標が有意に改善することが明らかになりました(Ibrahim et al., 2025)。

特に効果が高かったのは、以下の組み合わせです。

  • 筋力トレーニング+ストレッチ(最も効果が高い)
  • 筋力トレーニング+ストレッチ+有酸素運動
  • 有酸素運動+ストレッチ

ポイントは、「複合的な運動」が単独の運動よりも効果的だという点です。

ただし、痛みが強い時期に無理な運動は逆効果です。理学療法士の指導のもと、現在の体の状態に合わせて段階的に進めることが大切です。

3. 認知行動療法的アプローチ

痛みに対する考え方(認知)と行動パターンを見直すアプローチも有効とされています。

「痛み=体が壊れている」という思い込みを修正し、痛みがあっても安全に活動できるという経験を積み重ねていくことが、中枢感作の改善につながると考えられています。

慢性疼痛治療ガイドライン(2021年)でも、認知行動療法は推奨されている治療法の一つです。

⚠️ 専門家の指導のもとで行うことをおすすめします

中枢感作に対する運動療法や認知行動療法的アプローチは、専門知識を持った医師や理学療法士の指導のもとで行うことが効果的です。自己判断のみで進めることは、かえって症状を悪化させるリスクがあります。


今日からできるセルフケア

専門家への相談と並行して、日常生活でも取り入れられるケアを紹介します。

1. 「痛み日記」をつける

痛みの強さ、場所、どんなときに強くなるか、気分や睡眠の状態などを記録します。自分の痛みのパターンを「見える化」することで、不安の軽減や受診時の情報共有に役立ちます。

2. 軽いウォーキングから始める

いきなり激しい運動をする必要はありません。1日10〜15分程度のウォーキングから始めてみましょう。大切なのは「痛みの許容範囲内で」「少しずつ」活動量を増やしていくことです。

痛みが翌日に悪化するようであれば、運動量を調整してください。

3. 呼吸法でリラックスする

ゆっくりとした深呼吸は、自律神経のバランスを整え、痛みの感受性を下げる効果が期待できます。鼻から4秒かけて吸い、口から6〜8秒かけてゆっくり吐く方法がおすすめです。

1日2〜3回、各5分程度を目安にしてみてください。

4. 睡眠の質を見直す

毎日同じ時間に寝起きする、就寝前のスマホ使用を控える、寝室の環境を整えるなど、基本的な睡眠衛生を見直しましょう。質の良い睡眠は、神経系の回復を促す土台になります。

5. 痛みについて正しく知る

痛みのメカニズムを理解することは、それ自体が治療的な効果を持つとされています。「痛い=体が壊れている」とは限らないことを知るだけで、痛みへの恐怖が和らぎ、回復に向けた一歩を踏み出しやすくなります。

⚠️ これらのセルフケアは一般的な情報であり、すべての方に効果を保証するものではありません。痛みが続く場合や悪化する場合は、必ず医療機関を受診してください。


こんなときは医療機関へ

以下のような場合は、自己判断せず、医療機関の受診をおすすめします。

  • 痛みが3か月以上続いている
  • 痛みが徐々に強くなっている
  • 痛む範囲が広がっている
  • しびれや感覚の異常を伴う
  • 睡眠が妨げられるほどの痛みがある
  • 日常生活や仕事に支障が出ている
  • 気分の落ち込みや不安が続いている

慢性痛の治療は、整形外科だけでなく、ペインクリニック(痛み専門外来)や、リハビリテーション科での理学療法なども含めた集学的な対応が効果的とされています。


よくある質問(FAQ)

Q1. 中枢感作は「気のせい」ではないのですか?

A. 中枢感作は「気のせい」や「心の問題」ではありません。脳や脊髄の神経系に実際に起こる生体変化です。脳の画像研究でも、中枢感作が起きている方の脳では特定の領域の活動パターンに変化があることが確認されています。

Q2. 中枢感作は治りますか?

A. 中枢感作は改善する可能性があります。神経系には「可塑性」(変化する能力)があるため、適切なアプローチによって過敏化した状態が元に戻ることが期待できます。ただし、改善には時間がかかることが多く、専門家の継続的なサポートが重要です。

Q3. 痛み止めは効きますか?

A. 中枢感作による慢性痛には、一般的な消炎鎮痛薬(NSAIDs)だけでは十分な効果が得られないことがあります。神経の過敏化に作用する薬剤(抗うつ薬や抗てんかん薬など)が使われる場合もありますが、薬物療法だけでなく運動療法や心理的アプローチを組み合わせることが推奨されています。薬の選択については、必ず医師にご相談ください。

Q4. 運動すると痛みが悪化しませんか?

A. 適切な範囲での運動は、むしろ中枢感作の改善に効果があることが多くの研究で示されています。2025年のメタアナリシスでも、段階的な運動介入によって中枢感作の指標が有意に改善したことが報告されています。ただし、無理な運動は逆効果になるため、理学療法士などの専門家と相談しながら進めることをおすすめします。

Q5. ストレスと痛みは本当に関係がありますか?

A. はい、密接に関係しています。心理的ストレスは、脳内の痛みを抑制するシステム(下行性疼痛抑制系)の機能を低下させ、痛みを感じやすくする方向に働きます。また、慢性痛自体がストレスの原因にもなるため、痛みとストレスの悪循環が生まれやすいことが分かっています。

Q6. どのような専門家に相談すればよいですか?

A. まずはかかりつけ医に相談し、必要に応じてペインクリニック(痛み専門外来)やリハビリテーション科を紹介してもらうのがよいでしょう。理学療法士は、運動療法や身体機能の評価を通じて、痛みの改善をサポートする専門家です。


まとめ

痛みが慢性化する背景には、「中枢感作」という神経系の過敏化が関わっている場合があります。これは「気のせい」ではなく、脳や脊髄で実際に起こる変化です。

中枢感作の改善には、痛みの正しい理解、段階的な運動療法、心理面へのアプローチなど、多角的な取り組みが有効とされています。最新の研究でも、筋力トレーニングとストレッチを組み合わせた複合的な運動が、中枢感作の改善に効果的であることが報告されています。

「ケガは治ったのに痛みが続く」「治療しても痛みが取れない」と感じている方は、中枢感作の可能性を含めて、ペインクリニックや理学療法士などの専門家に相談してみてください。適切な対応によって、痛みとの付き合い方が変わる可能性があります。


免責事項

記事の目的と性質

本記事は、痛みの慢性化と中枢感作に関する一般的な健康情報を提供することを目的としています。理学療法士の専門的視点から、科学的根拠に基づいた情報をわかりやすく解説していますが、以下の点にご注意ください。

本記事の限界

  • 個別診断の代替不可: 本記事の情報は、あなた個人の症状や状態に対する診断・治療を提供するものではありません
  • 医療行為ではない: 記事内容は医療行為や医学的助言ではなく、一般的な情報提供です
  • 自己判断のリスク: 本記事の情報のみに基づく自己判断や自己治療は、症状の悪化や重大な健康被害につながる可能性があります

医療機関受診の推奨

以下の場合は、必ず医療機関を受診してください:

  • 痛みや不調が続いている場合
  • 症状が悪化している場合
  • 日常生活に支障が出ている場合
  • 持病や既往歴がある場合
  • 高齢者や妊娠中の方

医師や理学療法士などの専門家による適切な診断と治療を受けることが最も重要です。

情報の正確性について

本記事は2026年2月時点の最新情報に基づいて作成されており、信頼できる医学的根拠や公的ガイドラインを参照しています。しかし、医学・医療情報は常に更新されており、将来的に内容が変更される可能性があります。

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参考文献

  1. 慢性疼痛治療ガイドライン作成ワーキンググループ. 慢性疼痛治療ガイドライン. 真興交易医書出版部, 2021.
  2. 日本ペインクリニック学会. ペインクリニック治療指針改訂第7版. 2023.
  3. Nijs J, George SZ, Clauw DJ, et al. Central sensitisation in chronic pain conditions: latest discoveries and their potential for precision medicine. Lancet Rheumatol. 2021;3(5):e383-e392.
  4. Ibrahim AAE, et al. Comparative effectiveness of various exercise interventions on central sensitisation indices: A systematic review and network meta-analysis. Ann Phys Rehabil Med. 2025;68(4):101894.
  5. Curatolo M, et al. Central Sensitization and Pain: Pathophysiologic and Clinical Insights. Curr Neuropharmacol. 2024;22(1):15-22.
  6. 日本医療政策機構(HGPI). 集学的な痛み診療・支援体制の均てん化に向けて(政策提言). 2023.
  7. 厚生労働省. 令和4年国民生活基礎調査の概況. 2023.

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