脳の各領域とリハビリテーション【2026年版】理学療法士が解説
2026.06.05
リハビリ
「脳卒中になったら、どんな症状が出るの?」 「リハビリで本当に回復するの?」
このような疑問をお持ちの方、多いのではないでしょうか。
実は、脳卒中などで脳が損傷されたときに現れる症状は、損傷された脳の部位によって大きく異なります。前頭葉が損傷されると運動や思考に影響が出ますし、側頭葉が損傷されると記憶や言葉の理解に問題が生じることがあります。
本記事では、脳の各領域が担っている機能と、損傷されたときに現れる症状、そしてリハビリテーションの視点について、理学療法士がわかりやすく解説します。
2026年1月時点の最新ガイドライン(脳卒中治療ガイドライン2021【改訂2025】)や最新研究も含めてご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
脳の基本構造を知ろう
まず、脳の基本的な構造について見ていきましょう。
脳は大きく分けて「大脳」「小脳」「脳幹」の3つの部分から構成されています。このうち、脳の大部分を占めるのが大脳です。
大脳の表面を覆う部分を「大脳皮質」と呼び、この大脳皮質は4つの領域に分けられます。
- 前頭葉(ぜんとうよう):前側の部分
- 頭頂葉(とうちょうよう):頭のてっぺんあたり
- 側頭葉(そくとうよう):こめかみ付近
- 後頭葉(こうとうよう):後ろ側の部分
それぞれの領域が異なる役割を持っており、どこが損傷されるかによって、現れる症状も変わってきます。
前頭葉:運動・思考・感情をコントロール
前頭葉の主な機能
前頭葉は人間の脳の中でも特に発達している部分で、以下のような重要な機能を担っています。
主な機能:
- 体を動かす指令(運動機能)
- 物事を計画し実行する力(遂行機能)
- 感情や行動のコントロール
- 言葉を話す機能(ブローカ野)
- 意欲や注意力
前頭葉の中でも、前頭前野と呼ばれる部分は、行動の企画や順序立て、状況に応じた行動の切り替えなど、社会生活を送る上で欠かせない機能を担っています。
前頭葉が損傷されると
前頭葉が損傷されると、以下のような症状が現れることがあります。
| 症状の種類 | 具体例 |
|---|---|
| 運動機能障害 | 反対側の手足の麻痺(片麻痺) |
| 遂行機能障害 | 計画を立てられない、優先順位がつけられない |
| 言語障害 | 言葉が出にくい(ブローカ失語) |
| 感情・行動の変化 | 衝動的になる、感情のコントロールが難しい |
| 注意障害 | 集中力が続かない |
特に、左側の前頭葉にある「ブローカ野」が損傷されると、相手の言葉は理解できるのに、自分が話したい言葉がうまく出てこなくなる「運動性失語」が起こります。
リハビリテーションの視点
前頭葉損傷に対するリハビリテーションでは、以下のようなアプローチを行います。
運動機能の改善:
- 麻痺した手足の反復訓練
- 課題指向型訓練(日常生活で必要な動作の練習)
遂行機能の改善:
- 段階的な課題設定
- 作業療法による日常生活動作の訓練
言語機能の改善:
- 言語聴覚士による言語訓練
- 発話の反復練習
最新の研究では、損傷していない脳の部分が、損傷した部分の機能を補うように再編成されることがわかってきました。これを「神経可塑性」と呼びます。
頭頂葉:感覚を統合し空間を認識する
頭頂葉の主な機能
頭頂葉は、体からの感覚情報を受け取り、それを統合する役割を担っています。
主な機能:
- 触覚、痛覚、温度感覚などの体性感覚
- 空間認識
- 計算能力
- 文字を書く能力
- 左右の区別
頭頂葉の前部には「一次体性感覚野」があり、体の各部位からの感覚情報が集まります。指先など敏感な部分ほど、広い領域が割り当てられています。
頭頂葉が損傷されると
頭頂葉が損傷されると、以下のような症状が現れることがあります。
| 症状の種類 | 具体例 |
|---|---|
| 感覚障害 | 触っても何を触っているか分からない |
| 半側空間無視 | 片側(特に左側)に注意が向かない |
| 失行 | 手は動くのに、服を着るなどの動作ができない |
| 失算 | 計算ができなくなる |
| 失書 | 文字が書けなくなる |
| 左右失認 | 右と左の区別がつかない |
特に右側の頭頂葉が損傷されると、左側の空間に注意が向かなくなる「半側空間無視」が起こることがあります。食事の左側のおかずに気づかない、左側の人とぶつかってしまうといった状況が生じます。
リハビリテーションの視点
頭頂葉損傷に対するリハビリテーションでは、以下のようなアプローチを行います。
感覚障害への対応:
- 触覚刺激を用いた感覚入力訓練
- 視覚で補いながら動作を行う練習
半側空間無視への対応:
- 視覚走査訓練(左側を意識的に見る練習)
- 環境調整(注意を向けやすい配置)
失行への対応:
- 動作の分解と段階的練習
- 視覚的・言語的な手がかりの活用
側頭葉:記憶と言語理解の中枢
側頭葉の主な機能
側頭葉は、聴覚情報の処理、記憶、言語理解など、多様な機能を担っています。
主な機能:
- 聴覚情報の処理
- 記憶の形成と保存(海馬)
- 言語の理解(ウェルニッケ野)
- 顔や物の認識
側頭葉の内側には「海馬」と呼ばれる部分があり、記憶の形成に重要な役割を果たしています。海馬が損傷されると、新しいことを覚えることが難しくなります。
側頭葉が損傷されると
側頭葉が損傷されると、以下のような症状が現れることがあります。
| 症状の種類 | 具体例 |
|---|---|
| 記憶障害 | 新しいことが覚えられない |
| 言語理解障害 | 相手の言葉が理解できない(ウェルニッケ失語) |
| 聴覚失認 | 聞こえるが何の音か分からない |
| 相貌失認 | 顔を見ても誰か分からない |
特に、左側の側頭葉にある「ウェルニッケ野」が損傷されると、流暢に話すことはできるのに、相手の言葉が理解できず、会話が成り立たなくなる「感覚性失語」が起こります。
リハビリテーションの視点
側頭葉損傷に対するリハビリテーションでは、以下のようなアプローチを行います。
記憶障害への対応:
- 記憶補助具の活用(メモ、スマートフォンなど)
- 環境の整理整頓
- ルーティンの確立
言語理解障害への対応:
- 言語聴覚士による言語訓練
- ジェスチャーや絵カードの活用
- ゆっくり・簡潔なコミュニケーション
後頭葉:視覚情報の処理センター
後頭葉の主な機能
後頭葉は、視覚情報を処理する中枢です。
主な機能:
- 視覚情報の受容と処理
- 形や色の認識
- 物体や文字の認識
目から入った光の情報は、視神経を通って後頭葉に届き、そこで処理されます。後頭葉で受け取った視覚情報は、さらに頭頂葉や側頭葉に送られ、「何を」「どこに」見ているかが認識されます。
後頭葉が損傷されると
後頭葉が損傷されると、以下のような症状が現れることがあります。
| 症状の種類 | 具体例 |
|---|---|
| 視野障害 | 視野の一部が見えなくなる |
| 皮質盲 | 目は正常なのに見えない |
| 視覚失認 | 見えているのに何か分からない |
両側の後頭葉が広範囲に損傷されると、眼球自体は正常なのに物が見えなくなる「皮質盲」が起こることがあります。中には、自分が見えていないことに気づかない方もいます。
リハビリテーションの視点
後頭葉損傷に対するリハビリテーションでは、以下のようなアプローチを行います。
視野障害への対応:
- 視野欠損を補う視線移動訓練
- 安全な環境設定
視覚失認への対応:
- 他の感覚(触覚、聴覚)を活用
- 日常物品の練習
神経可塑性:脳の驚くべき回復力
神経可塑性とは
「脳卒中で一度失われた機能は、もう戻らないのでは?」
こう思われる方も多いかもしれません。確かに、損傷した脳細胞そのものは元に戻りません。
しかし、近年の脳科学研究で、リハビリテーションによって損傷していない脳の部分が、失われた機能を補うように再編成されることがわかってきました。
これを「神経可塑性」と呼びます。
例えば、脳梗塞で指を動かす神経細胞が損傷しても、リハビリを続けることで、本来は手首を動かす指令を出す神経細胞が、指を動かす指令を出せるようになることがあります。
神経可塑性を引き出すリハビリテーション
2025年8月に公開された最新の研究によると、神経可塑性を最大限に引き出すためには、以下の要素が重要とされています。
重要な要素:
- 反復的な練習:同じ動作を繰り返し練習する
- 集中的な訓練:ある程度の時間と頻度を確保する
- 目標指向的な活動:意味のある、目的を持った活動
- 適切な難易度:「ややきつい」と感じる程度
最新の脳卒中治療ガイドライン2021【改訂2025】(2025年8月発行)では、以下のような先端技術を用いたリハビリテーションの有効性も報告されています。
| 先端技術 | 内容 |
|---|---|
| BCI(ブレイン・コンピュータ・インターフェース) | 脳活動を検出して機器を動かす訓練 |
| rTMS(反復性経頭蓋磁気刺激) | 磁気刺激で脳の神経活動を調整 |
| tDCS(経頭蓋直流電気刺激) | 微弱な電流で脳を刺激 |
| VR・AR | 仮想現実を用いた没入型リハビリ |
これらの技術は、脳の可塑性を促進し、リハビリテーション効果を高める可能性があると期待されています。
早期リハビリテーションの重要性
早期開始が推奨される理由
脳卒中治療ガイドライン2021【改訂2025】では、発症後できるだけ早期からリハビリテーションを開始することが強く推奨されています。
早期リハビリテーションには、以下のような効果があります。
早期リハビリの効果:
- 廃用症候群(使わないことによる機能低下)の予防
- 神経可塑性の促進
- 機能回復の加速
- 寝たきりの予防
ただし、急性期には血圧管理や全身状態の観察など、十分なリスク管理が必要です。医師やリハビリテーション専門職の指導のもとで、安全に進めることが大切です。
リハビリテーションの流れ
脳卒中のリハビリテーションは、一般的に以下の3つの時期に分けられます。
| 時期 | 時期の目安 | 主な目標 |
|---|---|---|
| 急性期 | 発症直後〜数週間 | 廃用症候群の予防、早期離床 |
| 回復期 | 数週間〜数ヶ月 | 集中的な機能訓練、ADL向上 |
| 生活期 | 退院後 | 機能維持、社会参加 |
高次脳機能障害のリハビリテーションでは、74%が6ヶ月、97%が1年でリハビリの成果が得られているというデータがあります。
チーム医療としてのリハビリテーション
脳損傷後のリハビリテーションは、多職種によるチーム医療が欠かせません。
主な専門職とその役割:
| 専門職 | 主な役割 |
|---|---|
| リハビリテーション科医 | 機能評価、治療計画、リスク管理 |
| 理学療法士 | 運動機能、歩行、バランスの改善 |
| 作業療法士 | 日常生活動作、高次脳機能の改善 |
| 言語聴覚士 | 言語、嚥下機能の改善 |
| 看護師 | 日常生活のサポート、健康管理 |
| 医療ソーシャルワーカー | 社会復帰支援、制度利用の相談 |
それぞれの専門家が連携し、一人ひとりの状態に合わせた「オーダーメイド」のリハビリテーションプログラムを提供します。
よくあるご質問
Q1. リハビリはいつまで続ければよいですか?
A. リハビリテーションに明確な「終わり」はありません。回復期の集中的なリハビリは数ヶ月〜1年程度が目安ですが、その後も機能維持のために継続することが推奨されます。
回復した機能も、退院後に何もしないでいると再び機能低下が進むことがあります。外来リハビリや介護保険を利用したリハビリを継続することが大切です。
Q2. 発症から時間が経っていても、リハビリの効果はありますか?
A. はい、効果は期待できます。神経可塑性は大人になってからも発揮されることがわかっており、適切なトレーニングや環境刺激によって、発症後数年経過していても改善が見られることがあります。
Q3. 家族としてどのようなサポートができますか?
A. 家族の理解とサポートは、リハビリテーションにとって非常に重要です。
- リハビリの目標や進め方を専門職から学ぶ
- 自宅での練習を一緒に行う
- できることは自分でやってもらう(見守りながら)
- 焦らず、励ましの言葉をかける
- 社会参加の機会を作る(外出、趣味活動など)
Q4. どのようなリハビリ施設がありますか?
A. 主なリハビリ施設には以下のようなものがあります。
- 回復期リハビリテーション病棟:集中的なリハビリを行う専門病棟
- 外来リハビリテーション:病院・クリニックでの通院リハビリ
- 訪問リハビリテーション:自宅でリハビリ専門職がサポート
- 通所リハビリテーション(デイケア):施設に通ってリハビリ
Q5. リハビリで注意すべきことはありますか?
A. 以下の点に注意してください。
- 無理をしすぎない(疲労が強すぎるのは逆効果)
- 血圧や体調の変化に注意する
- 転倒に気をつける
- 痛みが強い場合は専門職に相談
- 自己判断で訓練を中止しない
持病のある方、症状が改善しない方、悪化する方は、速やかに医療機関を受診してください。
まとめ
脳の各領域とリハビリテーションについてご紹介しました。
この記事のポイント
✓ 脳の大脳皮質は前頭葉・頭頂葉・側頭葉・後頭葉の4つに分けられる ✓ 各領域が異なる機能を担っており、損傷部位で症状が変わる ✓ 神経可塑性により、損傷後も脳は回復する力を持っている ✓ 早期からのリハビリテーション開始が重要 ✓ 反復的・集中的・目標指向的な訓練が効果的 ✓ 多職種チームによるオーダーメイドのリハビリが大切 ✓ 最新技術(BCI、rTMS、tDCSなど)も活用されている
今日から意識してみませんか
脳には、損傷を受けても回復する驚くべき力が備わっています。
適切なリハビリテーションを続けることで、その力を最大限に引き出すことができます。一人ひとりの状態は異なるため、専門家の指導のもとで、自分に合った方法で取り組むことが大切です。
専門家に相談するタイミング
もし脳卒中や脳損傷の後遺症でお困りのことがあれば、理学療法士などのリハビリテーション専門職に相談してみましょう。
一人ひとりの状態に合わせた適切なアドバイスを受けることができます。
📚 参考文献
- 日本脳卒中学会. 脳卒中治療ガイドライン2021【改訂2025】. 協和企画, 2025年8月.
- 日本脳卒中学会. 脳卒中急性期リハビリテーションの指針. 日本脳卒中学会, 2023年5月.
- 日本理学療法学会連合. 理学療法ガイドライン第2版(WEB版). 日本理学療法学会連合, 2021年.
- 国立障害者リハビリテーションセンター. 高次脳機能障害の標準的リハビリテーションプログラム. 国立障害者リハビリテーションセンター.
- MSDマニュアル プロフェッショナル版. 脳機能の概要. MSD, 2023年8月更新.
- 慶應義塾大学病院. 高次脳機能障害のリハビリテーション. KOMPAS 医療・健康情報サイト.
- 世界脳卒中機構(WSO). World Stroke Organization: Global Stroke Fact Sheet 2025. International Journal of Stroke, 2025.
- 日本リハビリテーション医学会誌. 脳科学とリハビリテーション医学をつなぐ「脳可塑性」の探究. J-STAGE, 2025年8月公開.
- 理学療法―臨床・研究・教育. 脳卒中患者の体幹筋量と起き上がり動作獲得の予測. J-STAGE早期公開, 2025年6月20日.
執筆者情報
理学療法士
本記事は、2026年1月時点の最新の文献・ガイドラインに基づいて作成しています。
免責事項
本記事の情報は一般的な内容です。 個人の状態により適切な方法は異なります。
持病のある方、運動制限のある方は、医師にご相談ください。
症状が改善しない場合や悪化する場合は、速やかに医療機関を受診してください。