よく噛むと体が変わる|認知症・フレイル予防につながる咀嚼の力を理学療法士が解説【2026年版】
2026.05.06
健康について
「よく噛んで食べなさい」と言われたことはありませんか?
でも、なぜ噛むことが大切なのか、きちんと説明できる方は意外と少ないんです。実は、「噛む」という動作は消化を助けるだけではありません。脳の活性化から全身の筋力維持まで、体全体に深く関わっています。
💡 この記事について
本記事はセルフケア方法を含む健康情報を扱っています。痛みや不調のある方は、必ず医療機関にご相談のうえ実施してください。
目次
- 「噛む」ことの仕組みとは?
- 現代人の咀嚼事情
- 噛むことが体にもたらす5つの変化
- オーラルフレイルとは何か
- 咀嚼力を保つためのセルフケア
- よくある質問(FAQ)
- まとめ
「噛む」ことの仕組みとは?
食べ物を噛む動作には、4つの筋肉が連動して働きます。頬骨の下にある「咬筋(こうきん)」は、歯を噛み合わせて食べ物を砕きます。こめかみ周辺の扇形の「側頭筋」は、下あごを引き上げる最も大きな筋肉です。このほか「内側翼突筋」「外側翼突筋」が加わり、上下・前後・左右へと複雑な顎の動きを生み出します1。
これらをまとめて「咀嚼筋(そしゃくきん)」と呼びます。咀嚼筋は手足の筋肉と同じ骨格筋です。使わなければ、他の筋肉と同じように衰えていきます1。
また、噛む刺激は脳への神経信号としても機能します。咀嚼によって脳への血流が増加します。前頭葉や海馬の活動が高まることが、脳科学研究で報告されています3。
現代人の咀嚼事情

かつての日本人が1食で噛む回数は約1,200回とされていました。ところが、現代人の平均的な咀嚼回数は30回を大きく下回るという指摘があります5。
背景には食の変化があります。軟らかい加工食品やファーストフードが増え、「噛まなくても飲み込める」食事が日常化しました。忙しい日常での早食い習慣も、咀嚼回数を減らす要因の一つです。
厚生労働省は「噛みんぐ30(カミングさんまる)運動」を推進しています。1口30回以上を目標とする取り組みです。意識して噛む習慣が、健康への第一歩です2。
噛むことが体にもたらす5つの変化
① 消化吸収の効率が上がる
噛むことで唾液が分泌されます。唾液にはアミラーゼという消化酵素が含まれ、でんぷんの分解を助けます。よく噛まずに飲み込むと、消化器官への負担が増します。
② 脳が活性化する
咀嚼の刺激は脳への血流を増やします。前頭葉・海馬の活動が高まり、記憶力や判断力の維持につながると報告されています3。噛むことは「食事中の頭の運動」といえます。
③ 過食・肥満を防ぐ
よく噛むとゆっくり食べることになります。食事開始から約20分後に満腹中枢が刺激されます。早食いでは満腹感を感じる前に食べ過ぎてしまいます。咀嚼回数を増やすことは、自然な食事量の調整につながります。
④ 唾液で口内環境が整う
唾液には抗菌作用と口腔内の自浄作用があります。よく噛むことで唾液が多く分泌されます。口の乾燥が防がれ、むし歯や歯周病のリスクを抑えることにもつながります。
⑤ 全身の筋力維持に関わる
「噛む力」の低下は、全身のフレイル(虚弱)と深く関連します。口腔機能が低下した高齢者では、低栄養状態になる割合が約2.17倍高いという研究報告があります4。栄養が摂れなければ、全身の筋力も低下していきます。
オーラルフレイルとは何か

「オーラルフレイル」とは、口腔機能が少しずつ衰えていく状態を指します。「Oral(口腔)」と「Frailty(虚弱)」を組み合わせた、日本発の概念です4。
以下のようなサインが重なるときは、注意が必要です。
- 硬いものが食べにくくなってきた
- お茶や汁物でむせることが増えた
- 滑舌が悪くなった気がする
- 食べこぼしが増えた
これらは「年のせい」と見過ごされがちなサインです。しかし、オーラルフレイルを放置すると危険です。死亡リスクや要介護リスクが高まることが、追跡調査で明らかになっています4。
早期に気づき、口周りの機能を鍛えることで状態の改善が期待できます。口は全身の老化の「窓口」ともいえる場所なのです。
理学療法士の視点から見ると、オーラルフレイルはフレイルや社会参加の低下とも深く絡み合っています。孤食が多い高齢者はオーラルフレイルになりやすく、食べる楽しみを失うことで外出意欲も低下していきます。
咀嚼力を保つためのセルフケア
咀嚼力は、意識的に使い続けることで維持が期待できます。以下の取り組みを日常に取り入れてみてください。顎・口腔に痛みや異常がある場合は、必ず歯科や医療機関を受診してから行ってください。
① 噛み応えのある食材を取り入れる
ごぼう・れんこん・玄米・あたりめなど、咀嚼回数が自然と増える食材を意識して選びましょう。完全に軟らかい食事ばかりを続けると、咀嚼筋が使われにくくなります。
② 咬筋マッサージ
頬骨の耳側で、口を閉じたときに硬くなる部分が咬筋です。中指・薬指を揃えてあてます。軽く円を描くようにほぐしましょう(30回程度)。咬筋をほぐすことで、顎の動きがスムーズになります1。
③ 口腔体操(パタカラ体操)
「パ・タ・カ・ラ」を繰り返す発声体操です。唇・舌・軟口蓋・のど周りの筋肉を一度にトレーニングできます。日本歯科医師会が推奨する基本的な口腔体操です2。1日1回、食事の前に行うのがおすすめです。
④ 唾液腺マッサージ
顎の中心あたりの柔らかい部分に、両手の親指を揃えて当てます。10回ほど上方向にゆっくり押し当てます。唾液の分泌が促進され、口の乾燥を和らげます2。
⑤ 定期的な歯科受診
歯が欠けたり、入れ歯が合わなくなると、噛む力が大きく低下します。定期的な歯科検診と口腔内のメンテナンスが、咀嚼力維持の土台になります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 1口何回噛めばいいですか?
厚生労働省の「噛みんぐ30運動」では1口30回以上が目安です2。食品の硬さや個人差もあります。「今よりも少し多く噛む」意識から始めることが、無理なく続けるコツといえます。
Q2. 柔らかい食事ばかりでも大丈夫ですか?
飲み込み機能の低下などで、やむを得ず柔らかい食事が必要な場合もあります。その際は、口腔体操や唾液腺マッサージで口周りの筋力を補うことが大切です。主治医や歯科医師に相談しながら取り組んでください。
Q3. 入れ歯でも咀嚼の効果はありますか?
入れ歯でも咀嚼によって脳への刺激は得られます。歯が少なくても入れ歯等で補っている人は、認知症のリスクが低いという研究結果も報告されています5。合わない入れ歯は噛む力を低下させるため、定期的な調整が大切です。
Q4. 若いうちから噛む力を鍛える必要はありますか?
咀嚼力の低下は高齢者だけの問題ではありません。若い世代でも軟らかい食事習慣が続くと、咀嚼筋は使われにくくなります。早い段階で「よく噛む習慣」を身につけることが、将来のオーラルフレイル予防につながります。
Q5. 噛む力が落ちた気がするときはどうすればいいですか?
硬いものが食べにくい、むせが増えたなどのサインが続く場合は要注意です。歯科または医療機関への相談をおすすめします。口腔機能低下症は歯科で保険適用の検査・リハビリが受けられます。早期対応が機能維持の鍵になります。
まとめ
「噛む」という動作は、消化から脳の活性化、全身のフレイル予防まで、幅広い健康効果と関わっています。現代の食生活では、意識しないと咀嚼回数は自然と減っていきます。
まずは「今日の食事を、少しだけよく噛んでみる」という小さな意識から始めてみてください。咬筋マッサージや口腔体操は、毎日数分で取り組めます。口の健康を守ることが、体全体の健康寿命を延ばすことにつながっていくんです。
噛む力の低下や嚥下への不安を感じていたら、一度専門家に相談することも選択肢の一つです。
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記事の目的と性質
本記事は、咀嚼・オーラルフレイルに関する一般的な健康情報を提供することを目的としています。理学療法士の専門的視点から、科学的根拠に基づいた情報をわかりやすく解説していますが、以下の点にご注意ください。
本記事の限界
- 個別診断の代替不可:本記事の情報は、あなた個人の症状や状態に対する診断・治療を提供するものではありません。
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以下の場合は、必ず医療機関を受診してください。
- 噛みにくさや飲み込みにくさが続く場合
- 症状が悪化している場合
- 日常生活に支障が出ている場合
- 持病や既往歴がある場合
情報の正確性について
本記事は2026年4月時点の最新情報に基づいて作成されており、信頼できる医学的根拠や公的ガイドラインを参照しています。医学・医療情報は常に更新されるため、将来的に内容が変更される可能性があります。
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参考文献
1. 日本歯科医師会テーマパーク8020. 筋肉の働き.
2. 日本歯科医師会. オーラルフレイル対策のための口腔体操.
3. 厚生労働省健康日本21アクション支援システム. 口腔機能の健康への影響. 2026年2月更新.
4. 東京都健康長寿医療センター研究所. 高齢期における口腔機能の重要性 ~オーラルフレイルの観点から~. 2022.
5. みんなの介護. 咀嚼の回数が高齢者の健康を左右する!?理想の噛む回数と早食い防止の工夫. 2024.
執筆者情報
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