「転びやすくなった」は老化じゃない|転倒リスクを下げる3つの機能【2026年版】
2026.05.08
健康について
「最近、平らな道でもつまずくようになった」「靴下を片足で履こうとしたらふらついた」。
そう感じたとき、多くの方は「年だから仕方ない」と思うのではないでしょうか。
でも、少し待ってください。
転びやすくなる原因は、加齢そのものではありません。特定の身体機能の低下です。つまり、適切に対処すれば、転倒リスクは下げられる可能性があります。この記事では、理学療法士の視点から転倒の本当の原因と、今からできることをお伝えします。
💡 この記事について
本記事は転倒リスクに関する一般的な健康情報を提供するものです。すでに転倒を繰り返している方・持病のある方は、必ず医療機関や専門家にご相談ください。
目次
- 「転びやすくなった」は老化のせいではない
- 転倒リスクに関わる3つの機能
- 転倒が招く深刻なリスク
- 転倒リスクを自分でチェックする方法
- 転倒リスクを下げるためにできること
- よくある質問(FAQ)
- まとめ
「転びやすくなった」は老化のせいではない

「年を取れば転びやすくなる」。これは半分正しくて、半分は誤解です。
確かに、加齢とともに身体機能は変化します。ただ、転倒は「年齢のせい」というより「特定の機能が低下したサイン」と捉えるほうが正確です。
65歳以上の高齢者のうち、約30%が1年以内に1回以上転倒を経験しているとされています1。しかし、同じ年齢でも転ぶ人と転ばない人がいます。その違いはどこにあるのでしょうか。
理学療法士の視点から見ると、転倒しやすい方には共通したパターンがあります。それは「筋力」「感覚機能」「神経系の反応・協調性」という3つの機能の低下です。
つまり、これらの機能を適切に維持・改善できれば、転倒リスクを下げることができると考えられます。老化を止めることはできませんが、機能の低下には働きかけることができるのです。
転倒リスクに関わる3つの機能
転倒は複数の要因が重なって起きます。中でも特に重要なのが次の3つです。
①筋力:バランスを保つ「力」
筋力は20〜30歳代をピークに、その後ゆっくりと低下していきます。特に50歳代以降、低下の速度が上がるとされています2。
転倒との関係でとくに重要なのは下半身の筋力です。大腿四頭筋(太ももの前)や中殿筋(お尻の横)が弱くなると、片足で立つ瞬間に体が不安定になります。歩いているとき、私たちは必ず片足に体重をかける瞬間があります。その瞬間に十分な筋力がないと、バランスを崩しやすくなります。
先行研究では、筋力低下がある方はない方に比べて転倒リスクが4.4倍高くなるという報告もあります3。筋力は転倒の最大のリスク因子といえます。
気になる症状がある場合は、専門家による筋力評価を受けることをおすすめします。
②感覚機能:危険を「察知する」センサー
私たちが転ばずに歩けるのは、体が常に「今どんな状態か」を感知しているからです。このセンサーの役割を担うのが3つの感覚系です。
視覚:足元の段差や障害物を確認します。加齢による視力低下や白内障があると、環境の変化に気づきにくくなります。
前庭感覚(内耳):頭の傾きや動きを察知します。内耳の機能が落ちると、ふらつきやめまいが起きやすくなります。
体性感覚(足裏・関節):地面の感触や関節の位置を感知します。「どれだけ足が上がっているか」「地面が平らか傾いているか」を視覚に頼らず判断するために使われます。加齢により足裏の感覚が鈍くなると、段差への反応が遅れます。
この3つのセンサーの情報を脳が統合して、体のバランスを保っています。どれか1つが低下しても、残りがカバーできる間は大きな問題が出ないこともあります。しかし、複数のセンサーが低下すると一気に転倒リスクが高まります4。
③反応・協調性:「とっさの動き」に対応する力
実は、転倒しそうになったときに最も重要なのは「とっさの一歩」です。バランスを崩したとき、私たちは無意識に足を踏み出したり、腕を伸ばしたりして体を立て直します。これを「姿勢反応」と呼びます。
加齢とともに神経の伝達速度が落ちると、この姿勢反応のタイミングが遅れます。「あ、転びそう」と感じてから体が反応するまでの時間が長くなるのです。
また、「歩きながら話す」「歩きながら考える」といった二重課題も、転倒リスクを高めます3。脳の注意資源が分散されると、姿勢維持への割り当てが減るためです。スマートフォンを見ながら歩く「ながらスマホ」が危険なのも、このメカニズムによります。
反応速度や協調性は、筋力や感覚と比べて見落とされがちな要素です。しかし、理学療法士の評価では必ずチェックすべき重要な項目です。
転倒が招く深刻なリスク

「転んでも、若い人なら打撲で済む」。でも、高齢者にとって転倒は全く別の話です。
厚生労働省の令和4年国民生活基礎調査によると、要介護になった原因の第3位は「骨折・転倒」です1。全体の13.0%を占めています。要支援の原因としても第3位(16.1%)を占めており、転倒は介護が必要になる重大な入口です。
高齢者に多い転倒による骨折は4種類あります。大腿骨近位部(股関節付近)、脊椎圧迫骨折、上腕骨近位端骨折、前腕骨遠位端骨折です。このうち大腿骨近位部骨折は、術後のリハビリに時間がかかります。そのまま寝たきりに移行するケースもあります3。
また、転倒が心理的な影響を与えることも見逃せません。一度転んで怖い思いをすると、「また転ぶかもしれない」という恐怖から活動量が減ります。活動量が減ると筋力がさらに落ち、感覚も鈍くなり、ますます転びやすくなる。これが「転倒の悪循環」です3。
転倒を「たまたまの事故」と捉えず、身体機能のサインとして早めに向き合うことが大切です。
転倒リスクを自分でチェックする方法
転倒リスクを簡単にセルフチェックする方法があります。日常生活の中で以下の点を確認してみてください。
歩行チェック
かかとから地面に足をつけているか。すり足・べた足になっていないか。歩幅が極端に狭くなっていないか。
片足立ちチェック
片足で靴下を履けるか。片足立ちを10秒間維持できるか(転倒しないよう、壁や手すりの近くで行ってください)。
立ち座りチェック
椅子から手を使わずに立ち上がれるか。立ち上がった瞬間にふらつきがないか。
日常動作チェック
以前よりつまずくことが増えた。階段の昇り降りで手すりを必ず使うようになった。歩きながら話すとふらつく感覚がある。
これらに1つでも当てはまる場合、3つの機能のいずれかが低下しているサインかもしれません。セルフチェックはあくまで目安です。気になる点がある方は、医療機関や理学療法士への相談をご検討ください。
なお、転倒リスクにはフレイル(虚弱)の兆候と重なる部分があります。フレイルについて詳しく知りたい方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。
📖 関連記事:フレイル・プレフレイルとは?気づいていない人が多い虚弱の前兆サイン【2026年版】
転倒リスクを下げるためにできること

転倒リスクへのアプローチは「原因に合わせた対策」が基本です。筋力が主な問題なのか、感覚が低下しているのか、反応速度の問題なのか。原因によって有効なアプローチが変わります。
①筋力へのアプローチ
下半身の筋力維持には、日常的な動作の中での負荷が効果的と考えられています。特に意識したいのは次の2点です。
椅子からの立ち座り(スクワット的動作)
椅子から立ち上がる・座る動作を、ゆっくりと意識的に行います。勢いをつけずに立ち上がることで、大腿四頭筋と中殿筋を使います。1日10回程度から始めてみましょう。
つま先立ち(カーフレイズ)
台所での作業中など、つま先立ちを行います。ふくらはぎの筋肉を強化し、歩行時の踏み出しを安定させます。転倒しないよう、必ずカウンターや壁に手を添えて行ってください。
運動習慣がない方は、まず「1日の歩数を増やす」ところから始めるのも一つの方法です。
📖 関連記事:1日の理想的な歩数は?|理学療法士が解説する健康維持のための歩数目標
②感覚機能へのアプローチ
裸足で室内を歩く
足裏からの感覚入力を増やします。安全が確保できる室内限定で行いましょう。靴下の場合は滑り止めつきのものを選んでください。
タンデム歩行(一直線歩き)
廊下などで、かかととつま先をつけるように一直線に歩きます。バランス感覚と体性感覚を同時に刺激できます。壁に沿って行うと安全です。
視力の低下が気になる方は、定期的な眼科受診と適切な眼鏡の使用も転倒予防につながります。
③反応・協調性へのアプローチ
片足立ち練習
壁や手すりの近くで片足立ちを10秒保持します。慣れてきたら目を閉じて行うと、前庭感覚と体性感覚への刺激が高まります。左右1セットずつ、1日3セットが目安です。
「ながら動作」を意識的に減らす
歩くときはスマートフォンをしまいましょう。会話中は立ち止まるなど、二重課題を避ける習慣をつけることが大切です。
これらのセルフケアは、あくまで軽度なリスクに対する一般的なアプローチです。すでに転倒を経験している方、痛みや強いふらつきがある方は要注意です。自己判断での運動は控え、専門家への相談をおすすめします。
専門的な評価と介入の有効性
2022年発表の世界ガイドラインでは、すべての高齢者に転倒予防と身体活動の指導が推奨されています4。転倒リスクが高い方には、個別評価に基づく複合的な介入が効果的とされています。
理学療法士による個別の機能評価では、どの機能がどの程度低下しているかを具体的に把握できます。「なんとなくふらつく」という状態でも、原因は人それぞれです。筋力なのか、感覚なのか、反応速度なのかを見極めることで、的を絞ったアプローチが可能になります。
「最近転びやすくなった気がする」「転倒が心配になってきた」。そんな方は、一度専門家による評価を受けてみることも選択肢の一つです。
運動能力の維持・向上については、こちらの記事も参考にしてみてください。
📖 関連記事:運動能力は何歳からでも上げられる|理学療法士が教える5つの鍛え方【2026年版】
よくある質問(FAQ)
Q1. 転倒予防に筋トレは必要ですか?
筋力は転倒リスクの最大因子の一つですので、維持・向上は有効と考えられています。ただし、筋力だけを鍛えても感覚機能や反応速度が低下していると効果は限定的です。バランス練習や感覚トレーニングと組み合わせることが重要です。まずは主治医や理学療法士に相談の上、自分に合った方法を選ぶことをおすすめします。
Q2. 転倒経験がある場合、運動してもいいですか?
転倒経験がある方は、まず医療機関で原因を評価してもらうことをおすすめします。原因がわからないまま運動を始めると、再転倒のリスクがあります。専門家の指導のもとで、安全な環境から少しずつ始めることが大切です。
Q3. 転倒が怖くて外出が減った場合はどうすればいいですか?
転倒への恐怖から活動を避けると、筋力・感覚・反応速度がさらに低下します。転倒リスクが高まる悪循環に陥ることがあります。まずは室内での安全な運動から始め、徐々に活動範囲を広げることが理想的です。家族や医療・介護の専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
Q4. 薬が転倒に関係することはありますか?
はい、関係します。睡眠薬・抗不安薬・降圧薬など、4種類以上の薬を服用している方は転倒リスクが高まるとされています2。ふらつきや立ちくらみを感じる場合は、主治医や薬剤師にご相談ください。自己判断で薬を中断することは危険ですので、必ず相談の上で対処してください。
Q5. 何歳から転倒予防を始めるべきですか?
筋力は50歳代から低下が加速するとされているため、できれば50歳代からの取り組みが理想です。ただし、何歳から始めても遅すぎることはなく、適切なアプローチで機能の維持・改善は期待できます。「転んでから考える」ではなく、日常的な運動習慣の維持が最もよい予防になります。
まとめ
「転びやすくなった」は老化のせいではなく、身体機能が発しているサインです。転倒リスクに関わる主な機能は次の3つです。
①筋力:バランスを保つ基盤。特に下半身の筋力低下は転倒リスクを大きく高めます。
②感覚機能:視覚・前庭感覚・体性感覚の3つが連携して危険を察知します。
③反応・協調性:「とっさの一歩」を出す神経系の速度と協調性です。
これらは加齢で変化しますが、適切なアプローチで維持・改善できる可能性があります。まずは日常生活のセルフチェックから始め、気になる点があれば専門家への相談を検討してみてください。転倒を予防することは、将来の骨折・介護リスクを下げることに直結します。「まだ大丈夫」の段階から取り組むことが、最も効果的な予防です。
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記事の目的と性質
本記事は、転倒予防に関する一般的な健康情報を提供することを目的としています。理学療法士の専門的視点から、科学的根拠に基づいた情報をわかりやすく解説していますが、以下の点にご注意ください。
本記事の限界
個別診断の代替不可:本記事の情報は、あなた個人の症状や状態に対する診断・治療を提供するものではありません。
医療行為ではない:記事内容は医療行為や医学的助言ではなく、一般的な情報提供です。
自己判断のリスク:本記事の情報のみに基づく自己判断や自己治療は、症状の悪化や健康被害につながる可能性があります。
医療機関受診の推奨
以下の場合は、必ず医療機関を受診してください。
転倒を繰り返している場合。ふらつきや立ちくらみが続いている場合。運動後に痛みや強い疲労感がある場合。持病や既往歴がある場合。
情報の正確性について
本記事は2026年4月時点の最新情報に基づいて作成されており、信頼できる医学的根拠や公的ガイドラインを参照しています。医学・医療情報は常に更新されるため、将来的に内容が変更される可能性があります。
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参考文献
1. 厚生労働省. 2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況. 2023.
2. 坂井田医療機器. 高齢者の身体機能低下とそのリハビリテーション(7)転倒予防.
3. 公益社団法人 日本理学療法士協会. 理学療法ハンドブック シリーズ18 転倒予防.
4. Montero-Odasso M, et al. World guidelines for falls prevention and management for older adults: a global initiative. Age and Ageing. 2022;51(9):afac205.
5. 日本老年医学会. 介護施設内での転倒に関するステートメント. 2021.
6. 日本転倒予防学会. 転倒予防実践ガイド.
執筆者情報
本記事は、理学療法士の専門的視点から作成しました。科学的根拠に基づいた信頼性の高い情報提供を心がけています。