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退院したのに体が戻らない——その理由を理学療法士が正直に話します【2026年版】

2026.05.12

リハビリ

退院したのに体が戻らない——その理由を理学療法士が正直に話します【2026年版】

手術が無事に終わった。
退院許可も出た。

なのに、なんか……思ったように動けない。

そんな経験をされた方、あるいはご家族がそういう状態の方、実はとても多いんです。

「なまけているわけじゃないのに」——そう感じている方は多いと思います。
今回はその「なぜ?」をきちんと説明したいと思います。

💡 この記事について
本記事は、退院後に身体機能がなかなか戻らないと感じている方・そのご家族向けの解説記事です。
個人の症状への診断や治療提案ではなく、一般的な情報提供を目的としています。
気になる症状がある場合は、医療機関やリハビリ専門職にご相談ください。


目次

  1. 退院後に「思ったより動けない」は、よくあること
  2. 入院中に何が起きているのか——廃用症候群の仕組み
  3. 「筋肉」だけじゃない。全身で起きていること
  4. 回復に時間がかかる理由——失うより取り戻すほうが大変
  5. セルフケアで対応できる範囲・できない範囲
  6. 保険リハビリが終わったあと、どうする?
  7. よくある質問(FAQ)
  8. まとめ

退院後に「思ったより動けない」は、よくあること

骨折の手術、人工関節置換、脊柱管狭窄症の手術。 整形外科系の手術を受けた多くの方が、退院後にこう感じます。

「病院にいたときよりむしろ動けなくなった気がする」

「階段がこんなに怖いとは思わなかった」

「先生には順調と言われたのに、日常生活が全然戻らない」

これは決して気のせいでも、なまけでもありません。

入院・手術・安静という経過を経た体には、術後の変化とは別に、もう一つの変化が静かに進んでいます。

それが「廃用症候群(はいようしょうこうぐん)」です。


入院中に何が起きているのか——廃用症候群の仕組み

廃用症候群とは、過度な安静や活動量の低下によって起きる、全身のさまざまな機能低下の総称です1

「生活不活発病」とも呼ばれます。

入院中は、どうしても安静の時間が長くなります。

病院のベッドの上でじっとしていると、体は急速に変化しはじめます。

最も分かりやすいのは筋力低下です。

絶対安静の状態では、1週間で10〜15%の筋力が低下するとされています1

1週間で10〜15%というのは、どういうイメージでしょうか。

例えば10kgを持ち上げられた人が、1週間後には8〜9kgしか持てなくなるイメージです。

さらに、3〜5週間の安静が続くと、筋力は約50%まで低下するという報告もあります2

高齢の方はこの変化がより顕著で、2週間の床上安静で下肢の筋肉が2割近く萎縮するとも言われています1

手術の影響と廃用の影響、両方が重なります。 退院後の体は思った以上に弱っている状態になっていることがあります。


「筋肉」だけじゃない。全身で起きていること

廃用症候群で起きることは、筋力低下だけではありません。

体全体にわたって、さまざまな変化が同時に起きます1

関節の動きが悪くなる(関節拘縮)

関節は動かされないでいると、周囲の組織が硬くなります。

特に足首や膝は影響を受けやすく、退院後に「つっぱり感」や「動きにくさ」として感じられることがあります。

立ち上がると血圧が下がる(起立性低血圧)

長く寝ていると、心臓や血管の調整機能が落ちます。

急に立ち上がったときに「くらっとする」のは、この機能が低下しているサインのことがあります。

転倒リスクが高まるため、特に注意が必要です。

精神面・認知機能への影響

入院中の刺激の少ない環境は、気分の落ち込みや意欲の低下につながることがあります。

「退院してからなんとなく元気がない」と感じるご家族もいますが、これも廃用の影響が考えられます。

呼吸機能の低下

横になった状態が続くと、肺が十分に広がりにくくなります。

少し動くだけで息が上がる、という状態になることがあります。

気になる症状が続く場合は、早めに医療機関を受診することをおすすめします。


回復に時間がかかる理由——失うより取り戻すほうが大変

ここが多くの方が直感しにくい部分です。

「1週間で10%落ちたなら、1週間頑張れば戻るのでは?」

残念ながら、そう簡単ではありません。

落ちた筋力を取り戻すには、低下した期間の数倍の時間が必要とされています3

1週間の安静で失った筋力を取り戻すには、積極的なトレーニングをしても1ヶ月はかかるとも言われます。

これにはいくつかの理由があります。

理由①:術後の痛みや疲れが運動を制限する

退院直後は、手術の影響で痛みや疲労が残っています。

「動かしたほうがいい」と分かっていても、思うように体を動かせません。

理由②:どのくらい動いていいか分からない

「無理しないように」という指示は正しいのですが、「どこまでが無理か」は人によって違います。

過度な安静を続けてしまうと、廃用はさらに進んでしまいます。

理由③:筋力だけでなく「動き方」も取り戻す必要がある

体の動き方(協調性・バランス・感覚)は、筋力とは別に鍛える必要があります。

筋トレだけでは、日常生活の動作が戻らないことも多いのです。

退院後もしっかりリハビリを継続することが、回復に向けた重要なステップと考えられています。


セルフケアで対応できる範囲・できない範囲

退院後、自分でできることは確かにあります。

毎日少しずつ歩く、姿勢を意識する、たんぱく質を摂る。 こういった取り組みは、回復を支える上で大切です。

一方で、セルフケアには限界もあります。

セルフケアが難しいこと

自分の動き方の「ずれ」に気づくのは、自分自身では難しいものです。

たとえば、痛みをかばった歩き方を続けていると、膝や腰に別の問題が起きることがあります。

また、「どのくらいの強度でどんな運動をすべきか」は、身体の状態によって異なります。

一般的な体操をやみくもに続けることが、必ずしも最善とは限りません。

「回復している気はするけど、このままでいいのか」と不安ならば、 専門家に一度みてもらうことも一つの選択肢です。


保険リハビリが終わったあと、どうする?

実は多くの方が知らないことがあります。

医療保険でのリハビリには、日数の上限が設けられているのです。

整形外科疾患では、手術・発症から150日以内が標準的な保険リハビリ期間とされています4

脳血管疾患(脳卒中など)は180日です。

「今日でリハビリ終了です」と告げられることがあります。 まだ回復途中でも保険の枠が尽きているケースは少なくありません4

保険リハビリが終わった後の3つの選択肢

保険上限を超えたあと、選択肢は大きく3つになります。

一つ目は、介護保険でのリハビリへの移行です。要介護認定を受けている方が対象で、デイサービスやデイケアなどで継続できます。

二つ目は、医療保険での継続です。医師が「改善の見込みがある」と判断した場合、月13単位を上限に継続できる特例があります。

三つ目が、自費リハビリの利用です。保険の制約なく、個人の状態に合わせた専門的なリハビリを継続できます。

自費リハビリは時間制限が少なく、目標に合わせたプログラムを組めるのが特徴です5

「もっと続けたいのに打ち切りになった」と感じているなら、 一度選択肢を整理してみることをおすすめします。


よくある質問(FAQ)

Q1. 退院後、どのくらいで元の状態に戻りますか?

回復の速さは、手術の種類・入院期間・年齢・手術前の体力などによって大きく異なります。一般的に、失われた機能を取り戻すには失った期間の数倍の時間が必要と考えられています。焦らず、専門家の指導のもとで計画的に進めることが大切です。

Q2. 痛みがあってもリハビリはしたほうがいいですか?

「少し痛みがある程度」なら動くことを推奨するケースが多いです。 ただし強い痛みや急増した痛みのときは無理に動かないでください。どのくらいの痛みで動いていいかは個人差があるため、担当のリハビリ専門職や医師に確認するのが安心です。

Q3. 退院後も転倒が怖くて外出できません

転倒への恐怖はとても自然な反応です。 ただし活動量が落ちると廃用がさらに進む悪循環になりやすいです。自宅内の環境調整(手すりの設置など)や、バランス機能のリハビリが有効な場合があります。専門家に相談してみてください。

Q4. 病院でOKと言われたのに動けないのはなぜですか?

病院での「OKサイン」は、主に手術部位の回復(骨の癒合や創部の治癒)を指すことが多いです。一方で廃用によって落ちた筋力やバランス機能は別の問題として残ることがあります。手術が成功していても、全身機能の回復は別途必要と考えてください。

Q5. 高齢の親が退院後にぼんやりしている。これも廃用ですか?

精神的な活動量の低下(興味・関心の薄れや会話量の減少)も廃用の一側面と考えられます。ただし、他の原因の可能性もあるため、気になる変化は早めに医師にご相談ください。活動の機会を少しずつ増やすことが、精神機能の回復にもつながると考えられています。

Q6. 自費リハビリは保険リハビリと何が違いますか?

保険リハビリは日数・単位数・内容に制限があります。一方、自費リハビリは保険の枠を超えて個人の状態に合わせた内容・時間・頻度でリハビリを継続できます。費用の自己負担は増えますが、目標に応じた専門的なサポートを受けられるのが特徴です。


まとめ

退院後に体がなかなか戻らないのは、あなたの努力が足りないわけでも、年のせいだけでもありません。

入院・安静という過程で、体には廃用という変化が確実に積み重なっています。

そしてその回復には、失った時間の数倍がかかることが多いのです。

大切なのは「何が起きているのか」を正しく理解することです。 その上で自分の状態に合ったリハビリを、適切なタイミングで続けましょう。

保険リハビリが終わってもまだ回復途中と感じるなら、選択肢は残っています。

「もっと動けるようになりたい」という気持ちは、リハビリを続ける上で一番大切なエンジンです。

ぜひ、専門家に相談しながらその気持ちを活かしてください。

リペアルポでは、術後の機能低下に対する個別リハビリプログラムをご提供しています。
退院後のリハビリについてご相談がある場合は、術後機能低下のリハビリページもあわせてご覧ください。

また、加齢や関節の痛みに伴うリハビリについては、加齢・関節の痛みのリハビリページもご参考にどうぞ。


免責事項

記事の目的と性質

本記事は、術後機能低下・廃用症候群に関する一般的な健康情報を提供することを目的としています。理学療法士の専門的視点から、科学的根拠に基づいた情報をわかりやすく解説していますが、以下の点にご注意ください。

本記事の限界

個別診断の代替不可:本記事の情報は、あなた個人の症状や状態に対する診断・治療を提供するものではありません。

医療行為ではない:記事内容は医療行為や医学的助言ではなく、一般的な情報提供です。

自己判断のリスク:本記事の情報のみに基づく自己判断や自己治療は、症状の悪化や健康被害につながる可能性があります。

医療機関受診の推奨

以下の場合は、必ず医療機関を受診してください。

痛みや不調が続いている場合/症状が悪化している場合/日常生活に支障が出ている場合/持病や既往歴がある場合

情報の正確性について

本記事は2026年4月時点の最新情報に基づいて作成されており、信頼できる医学的根拠や公的ガイドラインを参照しています。医学・医療情報は常に更新されるため、将来的に内容が変更される可能性があります。

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当施設は、本記事の情報をできる限り正確かつ有用なものとするよう努めていますが、情報の完全性・正確性・有用性・適時性について保証するものではありません。本記事の情報を利用したことにより生じた損害について、当施設は一切の責任を負いかねます。


参考文献

1. 公益財団法人長寿科学振興財団. 廃用症候群. 健康長寿ネット, 2019.

2. 看護roo!. 廃用症候群(看護用語). 看護roo!, 2018.

3. 訪問リハビリのネクストステップス. 入院中の筋力の低下を回復するために必要な期間は?. 2024.

4. 日本臨床整形外科学会. 「リハビリ日数制限」って何?. 日本臨床整形外科学会.

5. リハビリZONE岐阜. 【保存版】リハビリ150日ルールとは?. 2025.


執筆者情報

本記事は、理学療法士の専門的視点から作成しました。科学的根拠に基づいた信頼性の高い情報提供を心がけています。

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