スカイツリーを階段で登ったら体はどうなる?消費カロリーと疲労の科学
2026.08.04
豆知識
「これを全部階段で登ったら、どれだけ疲れるんだろう?」
観光で訪れたタワーのエレベーターを前に、こんなことを考えたことはありませんか。スカイツリー、あべのハルカス、そして世界一高い建物。もし全部階段で登ったとしたら、体はいったいどうなってしまうのか。理学療法士の視点から、科学的に計算してみました。
⚠️ 本記事は一般的な健康情報の提供を目的としています。心臓や関節に持病のある方はご注意ください。運動習慣のない方が高強度の階段昇降を行う場合は、事前に医師・理学療法士にご相談ください。
目次
1. まず登る建物を確認しよう
2. 階段昇降で使う筋肉はどこ?
3. 消費カロリーを計算してみた
4. 「足が笑う」のはなぜ起きるのか
5. 高さが増すほどきつくなる理由
6. 登り終わった後の体への影響
7. よくある質問(FAQ)
8. まとめ
まず登る建物を確認しよう

今回の「仮想登頂チャレンジ」に登場するのは3つの建物です。
まず、東京のシンボル・東京スカイツリー。高さは634mで、日本一を誇ります。展望台は2段階に分かれています。第1展望台「天望デッキ」が350m、第2展望台「天望回廊」が450mです1。
次に、大阪が誇る超高層複合ビル・あべのハルカス。高さ300mで、日本で2番目の高さを誇ります。最上階の展望台「ハルカス300」は、60階に位置しています2。
そして世界最高峰、ブルジュ・ハリファ(アラブ首長国連邦・ドバイ)。高さ828mという圧倒的な数字は、他を寄せつけません。実際には一般の方が全階段を登ることは不可能ですが、今回は「もし登れたとしたら?」という仮定の話です。
ちなみに、スカイツリーとあべのハルカスはエレベーターでの来場が基本です。一般の方が階段を登ることはできません。あくまで「計算上、もし登ったら?」というシミュレーションです。
階段昇降で使う筋肉はどこ?
階段を登るとき、体はどの筋肉を使っているのでしょうか。理学療法士の視点から解説します。
主役は下肢の3大筋群です。まず、太ももの前にある大腿四頭筋。膝を伸ばす力で体を持ち上げる、メインエンジンです。次に、お尻の大きな筋肉・大殿筋。股関節を伸ばして体を前に推し進める役割を担います。そして太ももの裏側・ハムストリングスも、バランスをとりながら補助的に働きます。
さらに忘れてはならないのが、ふくらはぎの腓腹筋・ヒラメ筋です。つま先で地面を蹴り、体重を持ち上げるときに強く収縮します。階段を何百段も登った後にふくらはぎが張るのは、この筋肉が相当な負荷を受けているからです。
体幹の筋肉(腹筋・背筋)も常に働いています。上半身をまっすぐ保ちながら足を動かすために、体幹は全体を通して収縮し続けます。一見「脚の運動」に見える階段昇降ですが、実は全身運動なんです。
消費カロリーを計算してみた
では、実際にどのくらいのカロリーを消費するのでしょうか。運動強度の指標である「METs(メッツ)」を使って計算してみました。
METs(メッツ)とは、安静時の何倍エネルギーを使うかを示す指標です。階段昇降のMETs値は8.0で、「かなりきつい」運動に分類されます3。ランニングに匹敵する高強度です。
計算式は以下のとおりです。
消費カロリー(kcal)= METs × 体重(kg)× 時間(h)× 1.05
今回は体重60kgの成人を想定。1段の高さを約17cm、1段あたり1.5秒のペースとして計算しました。
あべのハルカス展望台(300m)を登ると?
まずは大阪代表・あべのハルカスです。高さ300mを1段17cmで換算すると、約1,765段になります。これを登りきるのに、一般成人で約44分かかる計算です。
消費カロリーは約371kcal。ご飯に換算すると約2.2杯分です。マラソンの10km走に近いエネルギーを消費する計算になります。
スカイツリー天望デッキ(350m)を登ると?
続いてスカイツリーの第1展望台・天望デッキ(350m)です。段数は約2,059段。所要時間は約51分の計算です。
消費カロリーは約432kcal、ご飯換算で約2.6杯です。さらに天望回廊(450m)まで行くと、約2,647段・約66分・約556kcalになります。ご飯換算で約3.3杯分です。
ブルジュ・ハリファ(828m)を登ると?
世界最高峰・ブルジュ・ハリファです。高さ828mは段数に換算すると約4,871段。登り続ける時間はなんと約122分(2時間2分)です。
消費カロリーは約1,023kcal。これはご飯約6.1杯分です。カレーライス(約600kcal)を1.7食分食べたとしても、まだ補えない量のエネルギーを使う計算です。
体重によって変わるカロリー
消費カロリーは体重によって大きく変わります。スカイツリー天望デッキ(350m)を例に確認してみましょう。
体重50kgの方は約360kcal、体重60kgの方は約432kcalとなります。体重70kgなら約504kcal、80kgなら約576kcalです。体が重いほど消費カロリーが増える仕組みです。

「足が笑う」のはなぜ起きるのか
高い建物を登った後に経験する「足が笑う」現象。ガクガクと震えが止まらなくなるあの感覚は、なぜ起きるのでしょうか。理学療法士として、そのメカニズムを解説します。
原因① 乳酸の蓄積
階段昇降はMETs8という高強度運動です。一般成人の場合、最大酸素摂取量(VO₂max)の約70〜80%に相当する強度です4。
筋肉は有酸素代謝でエネルギーを作ります。しかし高強度になると、酸素の供給が追いつかなくなります。その結果、無酸素代謝が優位になり、乳酸が急速に蓄積します。一般成人ではVO₂maxの約50〜60%を超えると乳酸蓄積が加速します。これを「乳酸閾値(LT)」と呼びます4。
乳酸が蓄積した筋肉は、正確な収縮力を発揮しにくくなります。これが「足が笑う」ガクガクの正体の一つです。
原因② 筋グリコーゲンの枯渇
筋肉を動かすメインの燃料は、筋肉内に蓄えられた糖質(筋グリコーゲン)です。高強度運動を60〜90分続けると、この燃料が底をつき始めます5。
ブルジュ・ハリファの登頂時間は約122分。この計算では、登頂中に筋グリコーゲンが枯渇し始める可能性があります。燃料切れに近い状態では、筋肉が思うように動かなくなります。
原因③ 神経系の疲労
「足が笑う」のは筋肉だけの問題ではありません。長時間の高強度運動では、脳から筋肉への指令を出す「運動神経系」も疲弊します。
長時間の高強度運動では、神経伝達の精度が落ちます。筋収縮のタイミングを調整する機能が低下するため、細かい震えや歩行困難が起きます。これが「足が笑う」神経系的な側面です。
高さが増すほどきつくなる理由
高さが増すほどきつくなるのは当然ですが、その理由は単純ではありません。物理的な要因に加え、生理学的なメカニズムが絡んでいます。
まず、累積疲労の問題があります。筋肉は使い続けるほど乳酸が蓄積し、同じ出力を出すために必要な神経の指令が増えていきます。これを「運動単位の動員増加」と呼びます。つまり後半になるほど、最初と同じ段数を登るためにより多くのエネルギーを使うようになるのです。
また、重力に逆らい続けることの蓄積もあります。1段登るたびに体重分の力に抗って体を持ち上げており、その負荷が全段数にわたって積み重なります。スカイツリーの天望デッキまで約2,059回、体重分の力を発揮し続けているわけです。
さらに、心肺系への負担も見逃せません。長時間の高強度運動では心臓もフル稼働を続け、最終的には疲労感・息切れ・めまいのリスクも高まります。持病のある方は特に注意が必要です。
登り終わった後の体への影響

翌日以降に訪れる「遅発性筋肉痛」
高強度の階段昇降の後、翌日〜2日後に強い筋肉痛が出ることがあります。これは「DOMS(遅発性筋肉痛)」と呼ばれます。
DOMSは筋肉の微細な損傷に伴う炎症反応です6。特に階段の「下り」では大腿四頭筋に伸張性収縮が強くかかります。そのため翌日の筋肉痛が強く出やすいと考えられています。
スカイツリーの天望デッキ(350m)を仮に登った後は、2,000段以上の筋収縮が積み重なった状態です。未経験の方は翌日・翌々日の階段の下りが特につらくなる可能性があります。
回復のカギは「積極的休息」と水分補給
高強度運動後は「アクティブリカバリー(積極的休息)」が有効とされています7。完全に安静にするより、軽いウォーキングやストレッチを続けることで回復が促されます。
また、水分と糖質・タンパク質の補給も重要です。乳酸や老廃物の排出を促し、消費した筋グリコーゲンを補充するためです。登り終わった後は、水分補給と軽食を忘れないようにしましょう。
なお、激しい運動後に強い痛みや腫れ・しびれが続く場合はご注意ください。筋肉や関節への傷害が起きている可能性があります。医療機関への受診をおすすめします。
よくある質問(FAQ)
Q1. 実際にスカイツリーやあべのハルカスの階段を登ることはできますか?
通常の観光では、一般来場者が展望台まで階段を登ることはできません。エレベーターが利用されます。ただし、イベントやチャリティー行事として「階段チャレンジ」が期間限定で実施されることがあります。参加したい場合は公式サイトでご確認ください。
Q2. 体力に自信のない人が高層タワーを階段で登ることはリスクがありますか?
高強度運動を長時間続けるため、体への負担は大きくなります。心臓や関節に持病がある方、運動習慣のない方は特にリスクがあります。参加前に医師や理学療法士への相談が望ましいです。
Q3. 普段の階段昇降(オフィスや自宅)にも同じ効果はありますか?
はい、日常的な階段昇降も十分な運動効果があるとされています。厚生労働省のガイドライン(2023年)では、日常生活の身体活動量の底上げが推奨されています3。エレベーターより階段を選ぶことは、手軽な運動習慣として有効と考えられています。
Q4. 「足が笑う」状態になったらどうすればいいですか?
まず無理をせずに休憩することが大切です。足が震えている状態での無理な継続は、転倒リスクが高まります。座れる場所で休み、水分を補給しましょう。震えが長時間続く場合や痛みを伴う場合はご注意ください。意識がもうろうとする症状があれば、すぐに医療機関を受診してください。
Q5. 下りはどれくらい体への負担がありますか?
実は階段の「下り」は、登りと異なる種類の筋疲労をもたらします。下りでは大腿四頭筋が伸張性収縮を繰り返します。これは筋肉への微細な損傷が起きやすい動作です。消費カロリーは登りより少ないですが、翌日の筋肉痛は下りの方が強く出ることがあります。
Q6. こうした高強度の運動を日常のトレーニングに取り入れることはできますか?
はい、適切な強度で行えばトレーニング効果が期待できます。ただし、急に高強度の運動を始めると怪我のリスクが高まります。段階的に負荷を増やすこと、また事前に専門家に相談することが望ましいとされています。不安な方は理学療法士や医師にご相談ください。
まとめ
スカイツリー・あべのハルカス・ブルジュ・ハリファの「仮想階段登頂」を科学的に検証しました。理学療法士の視点でエネルギーと疲労を解説しました。
あべのハルカス(300m)は約371kcal・約44分。スカイツリー天望デッキ(350m)は約432kcal・約51分です。世界最高峰のブルジュ・ハリファ(828m)は約1,023kcal・約122分でした。いずれも「軽い運動」とは言えません。
「足が笑う」現象には3つのメカニズムが絡んでいます。乳酸蓄積・筋グリコーゲン枯渇・神経疲労です。体が限界に近づいたサインでもあります。無理は禁物です。
一方で、日常の階段昇降は、体への大きな負担なく続けられる優れた運動習慣でもあります。エレベーターを使わず階段を選ぶことで、少しずつ心肺機能や下肢筋力の維持につながると考えられています。
運動習慣や体のお悩みについて相談したい方は、ぜひ一度リハビリ専門スタッフにご相談ください。
免責事項
記事の目的と性質
本記事は、階段昇降と身体への影響に関する一般的な健康情報を提供することを目的としています。理学療法士の専門的視点から、科学的根拠に基づいた情報をわかりやすく解説していますが、以下の点にご注意ください。
本記事の限界
個別診断の代替不可:本記事の情報は、あなた個人の症状や状態に対する診断・治療を提供するものではありません。
医療行為ではない:記事内容は医療行為や医学的助言ではなく、一般的な情報提供です。
自己判断のリスク:本記事の情報のみに基づく自己判断や自己治療は、症状の悪化や健康被害につながる可能性があります。
医療機関受診の推奨
以下の場合は、必ず医療機関を受診してください。痛みや不調が続いている場合、症状が悪化している場合、日常生活に支障が出ている場合、持病や既往歴がある場合が該当します。
情報の正確性について
本記事は2026年4月時点の最新情報に基づいて作成されており、信頼できる医学的根拠や公的ガイドラインを参照しています。医学・医療情報は常に更新されるため、将来的に内容が変更される可能性があります。
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参考文献
1. 東京スカイツリー公式サイト. 東京スカイツリー 展望台・施設情報. TOKYO-SKYTREE.jp.
2. あべのハルカス公式サイト. あべのハルカス300 建物・展望台情報. abenoharukas-300.jp.
3. 厚生労働省. 健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023. 厚生労働省, 2024.
4. Ainsworth BE, et al. 2011 Compendium of Physical Activities: A second update of codes and MET values. Medicine & Science in Sports & Exercise. 2011;43(8):1575-1581.
5. 厚生労働省 e-ヘルスネット. 身体活動・運動の健康への影響. 厚生労働省.
6. 日本体力医学会. 身体活動のメッツ(METs)表. 体力科学, 2012.(書籍・学術誌)
7. Cheung K, et al. Delayed onset muscle soreness: treatment strategies and performance factors. Sports Medicine. 2003;33(2):145-164.(DOI: 10.2165/00007256-200333020-00005)
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