痛覚変調性疼痛(慢性疼痛の第3のタイプ)を理学療法士がわかりやすく解説【2026年版】
2026.02.28
リハビリ
「レントゲンやMRIでは異常がないのに、ずっと痛い」
病院でそう言われて、途方に暮れた経験はありませんか。検査で原因が見つからないと、「気のせいでは?」と片付けられてしまうこともあります。
でも、その痛みは決して「気のせい」ではありません。
近年の痛みの研究で、画像検査では見つからない「第3の痛み」の存在が明らかになってきました。それが「痛覚変調性疼痛(つうかくへんちょうせいとうつう)」です。
この記事では、理学療法士の視点から、痛みの3つのタイプをわかりやすく解説します。「なぜ自分だけ痛いのか」というモヤモヤが、少しでも晴れるきっかけになれば幸いです。
💡 この記事について
この記事は一般的な健康情報を提供するものであり、個別の医学的診断や治療の代わりとなるものではありません。症状や不安がある場合は、必ず医療機関を受診してください。
目次
- そもそも「痛み」とは何か?
- 痛みの3つのタイプを知ろう
- 痛覚変調性疼痛とは?「第3の痛み」の正体
- 「画像に異常がない=異常がない」ではない
- 不定愁訴と痛覚変調性疼痛の関係
- 痛覚変調性疼痛に対するアプローチ
- よくある質問(FAQ)
- まとめ
そもそも「痛み」とは何か?
痛みについて考える前に、まず大切なことがあります。
国際疼痛学会(IASP)は2020年に痛みの定義を改訂しました。現在の定義では、痛みは「感覚かつ情動の不快な体験」です。しかもこの定義には重要な一文が含まれています。「実際の組織損傷に似た体験」も痛みに含まれるのです(IASP, 2020)。
つまり、ケガや病気がなくても痛みは生じうる。国際的な専門機関がそう認めています。
痛みは単なる「体のセンサーの反応」ではありません。脳が総合的に判断して生み出す「体験」なんです。
痛みの3つのタイプを知ろう

痛みには、そのメカニズムによって大きく3つのタイプがあります。ここでは、身近な例えで説明してみましょう。
1. 侵害受容性疼痛(しんがいじゅようせいとうつう)
一言でいうと:体が傷ついて起こる痛み
打撲や骨折、関節炎など、体の組織が実際に損傷したときに感じる痛みです。これは私たちが最もなじみのある痛みでしょう。
火災報知器にたとえると、実際に火事が起きていて、報知器が正しく鳴っている状態です。炎症や損傷という「火元」があるので、その原因を治療すれば痛みも治まります。
代表的な疾患: 変形性関節症、関節リウマチ、骨折、捻挫など
2. 神経障害性疼痛(しんけいしょうがいせいとうつう)
一言でいうと:神経そのものが傷ついて起こる痛み
糖尿病や帯状疱疹の後遺症、椎間板ヘルニアによる神経圧迫など、神経の病変や損傷が原因で生じます。「ビリビリ」「ジンジン」といった独特の痛みが特徴です。
火災報知器のたとえでいえば、配線がショートして誤作動を起こしている状態です。火元(組織の損傷)ではなく、報知器のシステム(神経)自体に問題があります。
代表的な疾患: 帯状疱疹後神経痛、糖尿病性神経障害、坐骨神経痛など
3. 痛覚変調性疼痛(つうかくへんちょうせいとうつう)
一言でいうと:痛みのシステム自体が過敏になっている痛み
体の組織にも神経にも明らかな異常が見つからないにもかかわらず、痛みが続く状態です。これが「第3の痛み」と呼ばれるものです。
火災報知器のたとえでいえば、どうでしょう。火事も起きていない。配線にも問題がない。なのに、報知器の感度が上がりすぎている。わずかな煙や湯気にまで反応してしまう状態です。
代表的な疾患: 線維筋痛症、慢性腰痛の一部、過敏性腸症候群、慢性的な頭痛の一部など
| 痛みのタイプ | 原因 | 火災報知器のたとえ | 画像検査 |
|---|---|---|---|
| 侵害受容性疼痛 | 組織の損傷・炎症 | 実際に火事が起きている | 異常が見つかりやすい |
| 神経障害性疼痛 | 神経の損傷・病変 | 配線がショートしている | 神経の検査で判明することが多い |
| 痛覚変調性疼痛 | 痛みのシステムの過敏化 | 感度が上がりすぎている | 異常が見つかりにくい |
この3つの分類は、2017年にIASPが正式に採用しました。さらに2021年には、筋骨格系における痛覚変調性疼痛の臨床基準も策定されています(Kosek et al., 2021)。
大切なのは、これら3つのタイプは完全に分かれているわけではないということ。一人の方に複数のタイプが同時に存在することもあります。
痛覚変調性疼痛とは?「第3の痛み」の正体
痛覚変調性疼痛のメカニズム
では、なぜ組織にも神経にも明らかな問題がないのに、痛みが生じるのでしょうか。
その主な原因と考えられているのが「中枢性感作」です。簡単にいうと、脳や脊髄での痛みの処理が過敏になっている状態です。
私たちの体には、痛みを感じるシステムだけでなく、痛みを抑えるシステムも備わっています。これを「下行性疼痛抑制系(かこうせいとうつうよくせいけい)」と呼びます。
通常は、この「痛みのアクセル」と「痛みのブレーキ」がバランスよく働いています。しかし痛覚変調性疼痛では、アクセルが強くなりすぎたり、ブレーキが弱くなったりしていると考えられています。
2026年1月に発表された最新の国際的なレビュー論文でも、重要な指摘がなされています。痛覚変調性疼痛は中枢性感作と同義ではなく、より複雑なメカニズムが関わっているのです(Häuser et al., 2026)。
痛覚変調性疼痛の特徴
痛覚変調性疼痛には、以下のような特徴があるとされています。
- 痛みが広い範囲に及ぶことが多い
- 軽い刺激でも強い痛みを感じる(痛覚過敏)
- 本来は痛くない刺激でも痛みを感じる(アロディニア)
- 疲労感や睡眠障害を伴うことが多い
- 集中力の低下や気分の落ち込みを伴うことがある
- ストレスや天候の変化で症状が変動しやすい
これらの症状に心当たりがある方もいらっしゃるかもしれません。
痛覚変調性疼痛が関係すると考えられている疾患
- 線維筋痛症
- 慢性腰痛(画像で原因が特定できないもの)
- 過敏性腸症候群
- 慢性的な頭痛や片頭痛の一部
- 複合性局所疼痛症候群(CRPS)
「画像に異常がない=異常がない」ではない

「MRI・レントゲンを撮っても異常はありませんね」。
この言葉を聞いて安心する方もいれば、「では、この痛みは何なのか」とさらに不安になる方もいるでしょう。
実は、画像検査は体の「構造」を見るための検査です。骨が折れていないか、椎間板が飛び出していないか、腫瘍がないかなど、目に見える異常を調べます。
しかし、痛覚変調性疼痛は体の構造ではなく、「痛みを処理するシステムの機能」の問題です。これはレントゲンやMRIには映りません。
たとえるなら、テレビの映像は正常なのに音量だけが勝手に最大になっている状態です。テレビの外観(=画像検査)をいくら調べても、音量の問題(=痛みの処理システムの異常)は見つかりません。
だからこそ、「画像に異常がないのに痛い」は、決して「気のせい」ではないのです。近年の研究の進歩により、この痛みにはきちんとしたメカニズムがあることが分かっています。
⚠️ こんな場合は医療機関を受診してください
画像に異常がないと言われた場合でも、以下のような症状がある場合は再度医療機関を受診することをおすすめします。
- 痛みが日に日に悪化している
- しびれや脱力感がある
- 発熱や体重減少を伴う
- 夜間に痛みで目が覚める
- 排尿・排便に異常がある
これらの症状は、別の疾患が隠れている可能性があります。自己判断せず、必ず専門家に相談してください。
不定愁訴と痛覚変調性疼痛の関係
「体がだるい」「頭が重い」「どこが痛いかはっきり言えないけれど調子が悪い」。
このような訴えは、医療の現場では「不定愁訴」と呼ばれることがあります。検査で明確な原因が見つからない体の不調の総称です。
実は、不定愁訴の一部は、痛覚変調性疼痛と共通するメカニズムを持っている可能性が指摘されています。
痛覚変調性疼痛では、痛みだけでなく他の症状も伴います。疲労感、睡眠障害、認知機能の低下(いわゆる「ブレインフォグ」)なども現れやすいとされています。これは、痛みのシステムの過敏化が、痛覚だけでなくさまざまな感覚の処理に影響を及ぼすためと考えられています。
つまり、「原因不明の体の不調」の一部は、痛みの科学の進歩によって、少しずつ説明できるようになってきているのです。
日本では、慢性的な痛みに悩む方は約1,200万人にのぼると推計されています。慢性疼痛による年間の経済的損失は約3,700億円とも試算されており、社会全体の問題でもあります。
「原因が分からない」と言われて一人で悩んでいる方は、決して少なくありません。
痛覚変調性疼痛に対するアプローチ
痛覚変調性疼痛は、従来の「原因を見つけて取り除く」という治療法だけでは対処が難しいとされています。なぜなら、問題は体の構造ではなく、痛みの処理システムにあるからです。
では、どのようなアプローチが有効とされているのでしょうか。2024年〜2025年にかけて発表された研究やガイドラインを踏まえて紹介します。
1. 痛みの正しい理解(痛みの神経科学教育)
まず大切なのは、自分の痛みのメカニズムを正しく理解することです。
「痛みの神経科学教育」と呼ばれるアプローチがあります。英語では Pain Neuroscience Education といいます。痛みが必ずしも組織の損傷を反映していないことを学ぶプログラムです。
2025年のメタアナリシス(複数の研究をまとめた分析)でも効果が報告されています。慢性腰痛の痛みの軽減や、恐怖心の改善につながるとされています。
「痛みの正体を知る」こと自体が、治療の一歩になりうるのです。
2. 運動療法
慢性疼痛のリハビリテーション治療に関する研究(2024年)では、運動療法が強く推奨されています。痛みの軽減と身体機能の改善に効果があり、有害事象も少ないことが理由です。
ただし、痛覚変調性疼痛の方の運動療法には、いくつかの大切なポイントがあります。
- 低強度から始める: いきなり頑張りすぎないことが重要です
- 段階的に活動量を増やす: 少しずつ体を動かす量を増やしていきます
- 痛みに振り回されすぎない: 多少の痛みがあっても安全に動ける範囲を知ることが大切です
- 継続を最優先する: 週に1回でも続けることに意味があります
⚠️ 運動療法は、理学療法士や医師など専門家の指導のもとで行うことをおすすめします。自己判断で無理をすると、かえって症状を悪化させる可能性があります。
身体の痛みでお悩みの方は、専門家による個別のリハビリも選択肢の一つです。「整形疾患・スポーツ障害のリハビリ」や「加齢・関節の痛みのリハビリ」のページもぜひご覧ください。
3. 認知行動療法
痛みに対するネガティブな考え方を見直すアプローチです。「もう一生治らない」「動いたら悪化する」といった思い込みを、より現実的な考え方に導きます。
慢性疼痛の診療ガイドラインでは、認知行動療法を運動療法と併用することが強く推奨されています。
「痛い=動いてはいけない」という思い込みが、かえって痛みを長引かせることがあります。専門家と一緒に、安心して活動できる方法を見つけていくことが大切です。
リハビリにおける心の持ち方の重要性については、「自己肯定感がリハビリを変える|回復を左右する心の力」の記事もぜひお読みください。
4. 睡眠・ストレス管理
痛覚変調性疼痛は、睡眠の質やストレスと深い関わりがあるとされています。
睡眠不足は痛みの感受性を高め、痛みが睡眠を妨げるという悪循環に陥りやすくなります。規則的な睡眠リズムの確保や、リラクゼーション法の活用が推奨されています。
5. 多職種連携によるアプローチ
痛覚変調性疼痛の管理には、一つの治療法だけでは不十分なことがあります。複数のアプローチを組み合わせることが効果的とされています。
医師、理学療法士、心理士など、さまざまな専門家が連携する「集学的治療」。慢性疼痛の診療ガイドラインでも推奨されています。
厚生労働省も「痛みセンター」を核とした慢性疼痛診療システムの普及・人材養成モデル事業を推進しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 痛覚変調性疼痛は「気のせい」ですか?
いいえ、気のせいではありません。痛覚変調性疼痛は、脳や脊髄での痛みの処理に変化が生じている状態です。国際疼痛学会が正式に認めた痛みの分類であり、科学的な根拠に基づいた概念です。ただし、正確な診断には専門医の判断が必要ですので、医療機関を受診してください。
Q2. どの診療科を受診すればよいですか?
まずは整形外科や内科など、かかりつけの医師に相談するのがよいでしょう。必要に応じてペインクリニック(痛みの専門外来)を紹介されることもあります。厚生労働省が推進する「痛みセンター」への受診も選択肢です。
Q3. 薬で治りますか?
痛覚変調性疼痛に対しては、一般的な鎮痛剤だけでは効果が限定的な場合があるとされています。現在は、痛みの処理システムに働きかける薬物が用いられることがあります。運動療法や認知行動療法との組み合わせも検討されています。治療方針は必ず医師と相談して決めてください。
Q4. 運動しても大丈夫ですか?
適切な運動は、痛覚変調性疼痛の改善に有効とされています。ただし、いきなりハードな運動をすることは避け、低強度から段階的に始めることが重要です。理学療法士などの専門家の指導を受けることをおすすめします。
Q5. ストレスと痛みは関係がありますか?
関係があると考えられています。慢性的なストレスは、痛みの処理システムの過敏化を助長する可能性が指摘されています。ストレス管理は痛みの管理においても重要な要素の一つです。
Q6. 線維筋痛症と痛覚変調性疼痛は同じものですか?
完全に同じではありません。線維筋痛症は「疾患名」であり、痛覚変調性疼痛は「痛みのメカニズムの分類」です。線維筋痛症には痛覚変調性疼痛のメカニズムが大きく関与しています。ただし、侵害受容性疼痛や神経障害性疼痛が混在する場合もあります(Häuser et al., 2026)。診断は専門医にご相談ください。
Q7. 自分でできるセルフケアはありますか?
痛みの正しい理解、適度な運動の継続、十分な睡眠の確保、ストレス管理などが推奨されています。ただし、自己判断のみで対処するのではなく、医療専門家の指導を受けながら取り組むことが大切です。
まとめ
この記事では、痛みの3つのタイプと「第3の痛み」である痛覚変調性疼痛について解説しました。ポイントを整理します。
- 痛みには、侵害受容性疼痛・神経障害性疼痛・痛覚変調性疼痛の3タイプがある
- 痛覚変調性疼痛は、痛みの処理システム自体が過敏になった状態
- 画像検査で異常がなくても、痛みには科学的なメカニズムがある
- 「気のせい」ではなく、国際的に認められた痛みの概念である
- 運動療法、痛みの教育、認知行動療法などの組み合わせが推奨されている
「画像に異常がないのに痛い」という経験は、決してあなただけのものではありません。痛みの科学は日々進歩しており、以前は説明できなかった痛みにも、少しずつ光が当たり始めています。
痛みが長引いている方や、不定愁訴に悩んでいる方は、一人で抱え込まず、医療機関や専門家に相談してみてください。適切な診断とアプローチにより、痛みとの付き合い方が変わる可能性があります。
免責事項
記事の目的と性質
本記事は、痛覚変調性疼痛に関する一般的な健康情報を提供することを目的としています。理学療法士の専門的視点から、科学的根拠に基づいた情報をわかりやすく解説していますが、以下の点にご注意ください。
本記事の限界
- 個別診断の代替不可: 本記事の情報は、あなた個人の症状や状態に対する診断・治療を提供するものではありません
- 医療行為ではない: 記事内容は医療行為や医学的助言ではなく、一般的な情報提供です
- 自己判断のリスク: 本記事の情報のみに基づく自己判断や自己治療は、症状の悪化や重大な健康被害につながる可能性があります
医療機関受診の推奨
以下の場合は、必ず医療機関を受診してください:
- 痛みや不調が続いている場合
- 症状が悪化している場合
- 日常生活に支障が出ている場合
- 持病や既往歴がある場合
- 高齢者や妊娠中の方
医師や理学療法士などの専門家による適切な診断と治療を受けることが最も重要です。
情報の正確性について
本記事は2026年2月時点の最新情報に基づいて作成されており、信頼できる医学的根拠や公的ガイドラインを参照しています。しかし、医学・医療情報は常に更新されており、将来的に内容が変更される可能性があります。
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参考文献
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- Häuser W, Fitzcharles MA, Kosek E, et al. Nociplastic Pain: Facts, Controversies and Future Tasks. European Journal of Pain. 2026;30(1):e70175. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41294344/
- 日本痛み関連学会連合. Nociplastic painの日本語訳について. 2021. https://upra-jpn.org/archives/432
- 厚生労働省. 慢性疼痛対策. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/manseitoutsuu/index.html
- 沖田実ほか. 慢性疼痛に対するリハビリテーション治療のエビデンス. リハビリテーション医学. 2024;61(11). https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/61/11/61_61.1028/_article/-char/ja/
- 慢性疼痛治療とケアの現状と未来. 全日本鍼灸学会雑誌. 2023;73(2):68. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsam/73/2/73_68/_article/-char/ja/
- 厚生労働省eJIM. 慢性疼痛[各種疾患 – 医療者]. https://www.ejim.mhlw.go.jp/pro/overseas/c05/02.html
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