複数の課題をこなす脳の機能「ダブルタスク」|高齢になるにつれて重要性が増す理由
2026.07.01
リハビリ
この記事について
この記事は一般的な健康情報を提供するものであり、個別の医学的診断や治療の代わりとなるものではありません。症状や不安がある場合は、必ず医療機関を受診してください。
歩きながら会話をする、料理をしながらテレビを見る――。
私たちは日常的に、複数のことを同時にこなしています。
実は、この「2つ以上のことを同時に行う能力」は、加齢とともに低下することが分かっています。
この記事では、理学療法士の視点から、ダブルタスク(二重課題)能力とは何か、なぜ高齢者にとって重要なのかを、2026年2月時点の最新情報をもとに分かりやすく解説します。
目次
- ダブルタスク(二重課題)とは?
- ダブルタスク能力の低下は何歳から始まるのか
- 高齢者における転倒とダブルタスクの関係
- ダブルタスク能力が低下するメカニズム
- ダブルタスク能力の低下がもたらす日常生活への影響
- ダブルタスクトレーニングの効果
- 今日から始められるダブルタスクトレーニング
- よくある質問(FAQ)
- まとめ
- 免責事項
- 参考文献
- 執筆者情報
ダブルタスク(二重課題)とは?
ダブルタスク(デュアルタスク、二重課題)とは、2つ以上のことを同時に行う能力のことです。
日常生活では、このような場面が数多くあります。
- 歩きながら会話をする
- 料理をしながらテレビを見る
- 電話をしながらメモを取る
- 洗濯物を干しながら献立を考える
- 掃除をしながら鼻歌を歌う
若い頃は意識せずにできていたこれらの動作も、年齢を重ねると難しくなることがあります。
たとえば、歩いているときに話しかけられると、会話に集中するために立ち止まってしまう。
これは、脳が2つの課題を同時に処理する能力が低下しているサインかもしれません。
ダブルタスク能力の低下は何歳から始まるのか
「まだ若いから大丈夫」と思っていませんか?
実は、ダブルタスク能力の低下は、思っているよりも早く始まります。
54歳から低下が始まる
2023年にハーバード大学医学部が発表した研究によると、ダブルタスク能力は54歳から低下し始めることが明らかになりました。
従来は「65歳を過ぎてから」と考えられていましたが、実際にはもっと早い年齢から変化が始まっているのです。
この研究では、40〜64歳の成人640人を対象に、歩きながら計算をする課題を実施。
その結果、54歳以降で歩行速度や歩幅のばらつきが増加し、認知機能の低下とも関連していることが分かりました。
50代からの対策が重要
つまり、50歳を過ぎたら「まだ若いから」と油断せず、食事や運動、睡眠などの生活習慣を見直すことが大切です。
脳機能を高めるために、社会的な交流や知的な活動を意識して行うことも効果的とされています。
高齢者における転倒とダブルタスクの関係
転倒は要介護の主要な原因
令和4年(2022年)の国民生活基礎調査によると、介護が必要となる原因の第3位は「骨折・転倒」で、全体の13.0%を占めています。
また、要支援の原因でも第3位(16.1%)となっており、転倒は高齢者の健康を大きく損なう要因です。
さらに、高齢者の転倒・転落による死亡者数は、交通事故の3倍以上にのぼることも報告されています。
「Stops walking when talking」研究
1997年、スウェーデンの研究者Lundin-Olssonらが、転倒リスクとダブルタスクの関係を調べた伝説的な研究を発表しました。
この研究では、高齢者58人に対して歩行中に話しかけ、その反応を観察。
すると、12人が会話を始めると歩行を停止してしまいました。
驚くべきことに、この12人のうち10人が、その後6ヶ月以内に転倒したのです。
この研究は医学誌『Lancet』に掲載され、被引用数1,000以上という影響力の大きな研究となりました。
なぜ転倒するのか
日常生活では、ただ歩くだけでなく、さまざまなことを同時に行っています。
- 歩きながら景色を見る
- 歩きながら考え事をする
- 歩きながら会話をする
- 歩きながら信号を確認する
ダブルタスク能力が低下すると、これらを同時にこなせなくなり、注意が散漫になったり、バランスを崩したりして転倒リスクが高まるのです。
ただし、注意が必要なのは、65歳を過ぎた高齢者がダブルタスクを行おうとすると、かえって転倒リスクが高まる場合があることです。トレーニングを行う際は、専門家の指導のもとで、無理のない範囲で実施することが重要です。
ダブルタスク能力が低下するメカニズム
脳の「注意の容器」
理解しやすく説明するために、脳の中に「ペットボトルのような容器」があるとイメージしてください。
この容器には、私たちが使える注意力が入っています。
2つの課題を同時に行うとき、脳はこの限られた容器の中で、どの課題にどれだけの注意を配分するかを調整しています。
加齢による容器の変化
研究によると、この「注意の容器」は、加齢や病気の影響で容量が減少することが分かっています。
容器が小さくなると、2つの課題に十分な注意を配分できなくなり、どちらかの課題のパフォーマンスが低下してしまうのです。
前頭葉の働き
ダブルタスクを行うとき、脳の前頭葉という部分が特に重要な役割を果たします。
前頭葉は、思考や判断、状況把握を担当する部分です。
加齢により前頭葉の機能が低下すると、2つのことを同時に処理する能力も低下していきます。
ダブルタスク能力の低下がもたらす日常生活への影響
ダブルタスク能力が低下すると、日常生活のさまざまな場面で支障が出る可能性があります。
具体的な影響
- 歩行時: 会話に集中すると足が止まる、信号を見落とす
- 料理: テレビに集中して鍋を焦がす、火の消し忘れ
- 電話: 相手の話に夢中になってメモが取れない
- 運転: 会話に集中して標識を見落とす、急な判断が遅れる
社会生活への影響
これらの変化は、単なる「不便」だけでなく、自信の喪失や社会活動の減少につながることもあります。
「人と話しながら歩くのが怖い」「運転が不安」といった理由で、外出を控えるようになる方もいます。
こんな症状がある場合は医療機関へ
以下のような症状がある場合は、早めに医療機関を受診してください。
- 日常生活で頻繁に転倒する
- 複数のことを同時にできなくなった
- 歩行中に話しかけられると必ず立ち止まる
- 物忘れが増えた
- 判断力の低下を感じる
これらは、認知機能の低下や神経疾患の初期症状の可能性もあります。
自己判断せず、専門家に相談することをおすすめします。
ダブルタスクトレーニングの効果
最新研究が示す効果
2024年5月、東京慈恵会医科大学の研究チームが、医学誌『Journal of Clinical Medicine』にダブルタスクトレーニングの効果を発表しました。
この研究では、全国7つのリハビリテーション施設で、高齢者を2つのグループに分けて比較。
- グループA: 通常の運動訓練のみ
- グループB: 運動をしながら声を出して認知課題を行う訓練
結果、グループBでは、わずか2週間で下肢機能と認知機能の両方が改善しました。
脳の活性化
デュアルタスクトレーニングは、運動を司る小脳と、思考を司る前頭葉を同時に刺激します。
これにより、脳の血流量が増加し、脳全体が活性化することが確認されています。
睡眠の質も改善
2025年3月、筑波大学の研究では、低強度のマルチタスク運動が、女性高齢者の睡眠の質を改善することも明らかになりました。
運動直後に前頭前野が活性化し、夜間の深い睡眠が増加したとのことです。
今日から始められるダブルタスクトレーニング
ダブルタスクトレーニングは、特別な道具や場所は必要ありません。
以下に、自宅で気軽に始められる方法をご紹介します。
1. 足踏み+認知課題
方法:
- その場で足踏みをしながら、以下のいずれかを行う
- しりとりをする
- 100から7ずつ引いていく(100、93、86…)
- 好きな歌を歌う
- 今日の予定を声に出して確認する
ポイント: 足踏みのリズムを一定に保ちながら、認知課題にも集中しましょう。
2. ウォーキング+認知課題
方法:
- 散歩をしながら、以下のいずれかを行う
- 家族や友人と会話する
- 頭の中で計算をする(3の倍数を数える、など)
- 景色の中から特定の色を探す
注意: 安全な場所で行い、車や自転車に注意してください。
3. 手の運動+認知課題
方法:
- 右手でグー、左手でパーを同時に出す
- リズムに合わせて交互に変える
- 変えるタイミングで数を数える
ポイント: 最初は難しくても、繰り返すうちにできるようになります。
4. 日常生活の中で意識する
特別な時間を作らなくても、日常生活の中でダブルタスクを意識することができます。
- 洗濯物を干しながら、今日の献立を考える
- 料理をしながら、テレビのニュースの内容を理解する
- 歩きながら、周囲の景色を観察する
実施時の注意点
- 痛みを感じたら中止する: 無理は禁物です
- 転倒に注意: 安全な場所で行いましょう
- 専門家に相談: 持病がある方は、医師や理学療法士に相談してから始めてください
- 継続が大切: 効果を実感するには、半年程度の継続が必要とされています
よくある質問(FAQ)
Q1: ダブルタスクトレーニングは何歳から始めればいいですか?
A: 50代から始めることをおすすめします。研究によると、ダブルタスク能力は54歳から低下し始めることが分かっています。ただし、何歳から始めても効果は期待できます。
Q2: 1日にどれくらい行えばいいですか?
A: 明確な基準はありませんが、1日10〜20分程度を目安に、無理のない範囲で続けることが大切です。日常生活の中で意識して取り入れることも効果的です。継続することが最も重要ですので、自分のペースで行いましょう。
Q3: 認知症の予防にも効果がありますか?
A: ダブルタスクトレーニングは、認知機能の維持・改善に効果があるとされています。ただし、認知症の予防効果については、現在も研究が進められている段階です。気になる症状がある場合は、医療機関を受診してください。
Q4: どれくらいで効果が出ますか?
A: 個人差がありますが、研究では2〜4週間で効果が確認されています。ただし、効果を実感するには継続が重要です。半年程度を目安に続けることで、より確実な効果が期待できます。
Q5: 高齢の親に勧めたいのですが、注意点はありますか?
A: 転倒リスクがある方は、必ず専門家(医師、理学療法士など)に相談してから始めてください。また、無理な課題設定は逆効果になる可能性があります。その人の能力に合わせた負荷調整が重要です。痛みや不安を感じる場合は、すぐに中止してください。
Q6: 運動が苦手でもできますか?
A: はい、できます。座ったままできる手の運動と認知課題の組み合わせなど、運動が苦手な方でも取り組めるメニューがあります。無理のない範囲から始め、徐々にレベルを上げていくことをおすすめします。
Q7: マルチタスクとダブルタスクは違うのですか?
A: 基本的には同じ意味です。「デュアルタスク(二重課題)」「マルチタスク」「ダブルタスク」など、呼び方は異なりますが、いずれも「複数のことを同時に行う」という意味で使われています。
まとめ
ダブルタスク能力は、私たちの日常生活を支える重要な脳の機能です。
加齢とともに低下するこの能力ですが、54歳から変化が始まることが最新の研究で明らかになりました。
しかし、適切なトレーニングを継続することで、何歳からでも改善が期待できます。
この記事のポイント
- ダブルタスク能力は54歳から低下し始める
- 転倒リスクや日常生活の質に大きく影響する
- 運動と認知課題を組み合わせたトレーニングが効果的
- 日常生活の中で意識して取り入れることができる
- 継続することが最も重要
最後に
もし、痛みが続いたり、転倒が頻繁に起こる、日常生活に支障が出ているといった場合は、早めに医療機関を受診してください。
医師や理学療法士などの専門家による適切な診断と治療を受けることが最も重要です。
健康な毎日を送るために、今日からできることを少しずつ始めてみませんか。
免責事項
記事の目的と性質
本記事は、ダブルタスク能力と高齢者の健康に関する一般的な健康情報を提供することを目的としています。理学療法士の専門的視点から、科学的根拠に基づいた情報をわかりやすく解説していますが、以下の点にご注意ください。
本記事の限界
- 個別診断の代替不可: 本記事の情報は、あなた個人の症状や状態に対する診断・治療を提供するものではありません
- 医療行為ではない: 記事内容は医療行為や医学的助言ではなく、一般的な情報提供です
- 自己判断のリスク: 本記事の情報のみに基づく自己判断や自己治療は、症状の悪化や重大な健康被害につながる可能性があります
医療機関受診の推奨
以下の場合は、必ず医療機関を受診してください。
- 痛みや不調が続いている場合
- 転倒が頻繁に起こる場合
- 日常生活に支障が出ている場合
- 認知機能の低下を感じる場合
- 持病や既往歴がある場合
- 高齢者や妊娠中の方
医師や理学療法士などの専門家による適切な診断と治療を受けることが最も重要です。
トレーニング実施時の注意
本記事で紹介したダブルタスクトレーニングを実施する際は、以下の点にご注意ください:
- 痛みを感じる場合は、無理をせず中止してください
- 転倒リスクがある方は、専門家の指導のもとで行ってください
- 持病がある方は、医師に相談してから始めてください
- 65歳以上の高齢者は、トレーニングによって転倒リスクが高まる場合があるため、特に注意が必要です
情報の正確性について
本記事は2026年2月時点の最新情報に基づいて作成されており、信頼できる医学的根拠や公的ガイドラインを参照しています。しかし、医学・医療情報は常に更新されており、将来的に内容が変更される可能性があります。
運営者の責任範囲
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参考文献
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執筆者情報
本記事は、理学療法士の専門的視点から作成しました。科学的根拠に基づいた信頼性の高い情報提供を心がけています。
※2026年2月8日時点の最新情報に基づいて作成しています。