階段の昇り降りがつらい理由|降りが怖い人へ理学療法士が解説
2026.08.12
健康について
💡 この記事について:本記事は一般的な健康情報の提供を目的としています。個別の診断や治療の代わりにはなりません。痛みや不安がある方は医療機関にご相談ください。
「上りより、下りの方が怖い」。階段でそう感じたことはありませんか。
実は、これは気のせいではなく、体の仕組みから説明できる現象なんです。
理学療法士として現場で感じるのは、多くの方が「下りの怖さ」を年のせいにすることです。けれど、その背景には明確な理由があります。
この記事では、階段の昇り降りがつらくなる理由を動作の視点で解説します。そのうえで、降りを安全にするコツをお伝えします。
階段は「家庭内で最も転落が多い場所」
まず知ってほしい数字があります。住宅内の転落事故では、階段が最も多い場所です3。
健康長寿ネットによると、転落事故の43.3%が階段で起きています3。転倒事故でも階段は上位を占めます3。
政府広報も、自宅の階段・廊下を危険な箇所に挙げています4。慣れた階段ほど、油断が生まれやすいのです。
転落は「要介護」につながりやすい
階段での事故は、結果が重くなりがちです。高い位置から落ちるため、骨折のリスクが上がります。
骨折・転倒は、介護が必要になる主な原因の上位です5。だからこそ、階段動作の見直しが大切になります。

なぜ「下り」の方がつらいのかを理学療法士が解説
タネ明かしです。上りと下りでは、筋肉の使い方が根本的に違います。
上りは、体を上へ持ち上げる動作です。筋肉は縮みながら力を出します。
下りは、体が落ちる勢いを抑える動作です。筋肉は引き伸ばされながら、ブレーキをかけます2。
ブレーキ役の「遠心性収縮」が負担を生む
このブレーキの働きを、遠心性収縮と呼びます1。筋肉が伸ばされながら耐える、特殊な使い方です2。
下りでは、太ももの前の筋肉が体重を支え続けます2。この負担が、膝への強いストレスになります2。
現場では、下りで膝折れが怖いと話す方が多い傾向があります。ブレーキ役の筋力低下が、その不安の正体です。
「片脚で全体重」を一瞬支える瞬間がある
階段では、一段ごとに片脚立ちの瞬間が訪れます。次の段に足を下ろすまで、片脚が全体重を支えます。
下りでは、この片脚支持が下り坂のように不安定になります。バランスと筋力が、同時に試されるのです。
階段がつらくなる3つの原因
階段の不安には、いくつかの要因が重なります。主な原因を3つに分けて整理します。
原因1:ブレーキ役の筋力低下
下りでは、太ももの前がブレーキ役を担います2。この筋力が落ちると、体を支えきれません。
支えきれないと、膝がガクッと折れそうになります。これが「下りが怖い」の正体のひとつです。
原因2:片脚バランスの低下
階段は一段ごとに、片脚立ちの瞬間が訪れます。バランスが不安定だと、ここで体が揺れます。
特に下りでは、前下方へ重心が動きます。揺れを抑える力が落ちると、不安が一気に強まります。
原因3:膝や股関節の痛み・硬さ
膝に痛みがあると、かばう動作が増えます。下りで膝の前側が痛むのは、よくある訴えです2。
関節が硬いと、衝撃をうまく吸収できません。痛みと硬さは、筋力低下と並ぶ要因になります。
「階段を避ける」と起きること
怖いからと階段を避ける方は少なくありません。けれど、避け続けると行動の範囲が狭まります。
2階や外出をためらうと、生活の幅が小さくなります。動く機会が減り、足腰はさらに衰えます。
階段はブレーキの筋肉を使う、よい運動でもあります。安全に使えれば、足腰を保つ味方になります。
避けるのではなく、安全に使う方法を整えましょう。動作のコツと筋力づくりが、その鍵になります。
階段の昇り降りを安全にするコツとセルフケア

では、どうすれば階段を安全に使えるでしょうか。動作のコツと筋力の練習を分けて考えます。
降りは「二足一段・手すり活用」が基本
下りが不安なら、一段ずつ両足をそろえる「二足一段」が安全です。連続して下りるより、負担が分散します。
手すりは必ず使いましょう。支点が増えると、片脚支持の不安が大きく減ります。
降りるときは、つま先から静かに下ろします。ドスンと落ちないよう、ブレーキを意識します。
ブレーキの筋力を鍛える自宅練習
下りの怖さは、ブレーキ役の筋力で改善が期待できます。次の運動を、安全な場所で試してみてください。
- 椅子につかまり、ゆっくり座る動きを繰り返す
- 低い台から、片脚ずつゆっくり下りる練習
- 壁に手を添え、片脚立ちを5〜10秒保つ
「ゆっくり」がポイントです。ゆっくり動くほど、ブレーキの筋肉が鍛えられます。
環境を整えて転落を防ぐ
動作と並行して、環境の見直しも有効です。階段に手すりと滑り止めを設けましょう4。
足元が見えにくいと危険です。段の縁が分かるよう、明るさを確保してください4。
階段の練習を続ける3つのコツ
階段の不安は、正しい続け方で和らぎます。安全に取り組むための3つのコツを紹介します。
コツ1:低い段差から練習を始める
いきなり長い階段で練習しないことです。まずは一段の昇り降りから、安全に始めます。
慣れてきたら、段数を少しずつ増やします。手すりのある階段で行うと、より安心です。
コツ2:「ゆっくり下りる」で筋力を育てる
下りをゆっくり行うほど、ブレーキの筋肉が鍛えられます。急いで下りると、その効果は薄れます。
椅子にゆっくり座る練習も、同じ筋肉を使います2。階段が怖い日は、この練習から始めましょう。
コツ3:膝の痛みが強いときは相談する
下りで膝の痛みが強い場合は、無理をしないことです。痛みの原因に応じた対応が必要になります2。
自分では、どの動きが負担かを見極めにくいものです。専門家なら、外から動作のクセを確認できます。
一対一なら、その人の膝と生活に合わせて調整できます。階段の不安に寄り添う伴走が、安心を支えます。
階段を毎日の運動に変える工夫
階段は、避けるよりも味方につけたい場所です。日常の昇り降りが、そのまま運動になります。
下りるときは、二足一段でゆっくり下ろす意識を持ちます。これだけで、ブレーキの筋肉が鍛えられます。
手すりに片手を添え、つま先から静かに着地します。あわてず一段ずつ進むことが、安全と練習を両立させます。
昇るときは、お尻と太ももで体を持ち上げる意識を持ちます。膝だけに頼らず、大きな筋肉を使いましょう。
毎日の数往復が、足腰を保つ運動になります。階段は、生活の中にある身近なトレーニングの場です。
ただし、痛みやふらつきが強い日は無理をしません。手すりのない急な階段は避け、安全を最優先にします。

よくある質問(FAQ)
Q. 階段は上りと下り、どちらが体に負担ですか?
A. 膝への負担という点では、一般に下りが大きいとされています。下りは筋肉がブレーキ役として働く遠心性収縮を強いられるためです。筋力が落ちると、この負担が膝の痛みや膝折れにつながりやすくなります。
Q. 階段の下りが怖いとき、どう降りればよいですか?
A. 一段ずつ両足をそろえる二足一段がおすすめです。手すりを使い、つま先から静かに下ろします。あわてず一段ずつ進むことで、片脚支持の不安と膝への衝撃を減らせます。
Q. 階段がつらいのは、どの筋肉が弱っているのですか?
A. 主に太ももの前の筋肉と、お尻の筋肉が関わります。特に下りでは、ブレーキ役の太ももが重要です。ゆっくりした立ち座りや片脚立ちの練習で、必要な筋力の改善が期待できます。
Q. 階段での転落を防ぐには、何をすればよいですか?
A. 手すりの設置と滑り止め、十分な明るさの確保が基本です。住宅内の転落は階段が最も多い場所とされています。動作の練習と環境整備を組み合わせると、安全性が高まります。
Q. 上りはできるのに、下りだけ怖いのは異常ですか?
A. 異常ではなく、多くの方に見られる自然な現象です。下りは筋肉がブレーキ役を担う遠心性収縮を強いられ、上りより膝への負担が大きくなります。ブレーキ役の筋力が落ちると、下りだけ不安が強まります。ゆっくりした立ち座りの練習で、改善が期待できます。
Q. エレベーターを使う方が、足腰には良いのですか?
A. 安全に昇り降りできるなら、階段は良い運動になります。避け続けると、かえって足腰が衰えることがあります。一方、強い痛みやふらつきがある日は無理をしないことです。体調と安全を見ながら、使い分けることをおすすめします。
Q. 階段の練習は、自宅にないとできませんか?
A. 自宅に階段がなくても、代わりになる練習があります。低い踏み台を使った昇り降りや、ゆっくりした立ち座りが有効です。これらは、階段で使う筋肉と同じ部分を鍛えられます。踏み台は安定したものを選び、手すりや壁の近くで行いましょう。無理のない高さから始めてください。
Q. 手すりは、左右どちら側にあると良いですか?
A. 下りるときに、力の入りやすい側で握れる位置が基本です。多くの方は、利き手側にあると安心しやすい傾向があります。ただし、痛みのある脚や弱い側を守る配置が適する場合もあります。可能なら両側にあると、昇りと下りの両方で支えになります。設置に迷うときは、専門家に相談しましょう。
まとめ|階段の昇り降りは「コツと筋力」で変わる
下りが怖いのは、年のせいだけではありません。ブレーキ役の筋肉が試される、難しい動作だからです。
逆に言えば、二足一段や手すりのコツ、ブレーキの筋力練習で改善が期待できます。転落の予防にもつながります。
一人での練習が不安なときは、専門家が隣で見守る環境が安心です。降り方のクセを、その場で直せます。
地味に思えても、階段という生活動作を練習し直すことには意味があります。専門家と一対一で、無理のないペースで取り組めるからです。「自分で昇り降りできる」が、行動範囲を広げていきます。
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記事の目的と性質
本記事は、階段の昇り降りに関する一般的な健康情報を提供することを目的としています。理学療法士の専門的視点から、科学的根拠に基づいた情報をわかりやすく解説していますが、以下の点にご注意ください。
本記事の限界
・個別診断の代替不可:本記事の情報は、あなた個人の症状や状態に対する診断・治療を提供するものではありません。
・医療行為ではない:記事内容は医療行為や医学的助言ではなく、一般的な情報提供です。
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本記事は2026年6月時点の最新情報に基づいて作成されており、信頼できる医学的根拠や公的ガイドラインを参照しています。医学・医療情報は常に更新されるため、将来的に内容が変更される可能性があります。
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参考文献
1. 医学書院. 求心性・遠心性収縮による膝屈・伸筋力低下の比較(理学療法ジャーナル). 1990.
2. 大垣中央病院. 階段を下りる時に膝が痛いのはなぜ?力学. 大垣中央病院, 2025.
3. 長寿科学振興財団. 高齢者の住宅内の事故(健康長寿ネット). 2024.
4. 政府広報オンライン. 転倒事故の起こりやすい箇所. 内閣府.
5. 厚生労働省. 2022年国民生活基礎調査の概況. 厚生労働省, 2023.
6. 内閣府. 高齢者の住宅と生活環境に関する意識調査. 内閣府.
執筆者情報
本記事は、リペアルポ(大阪市福島区)の理学療法士が監修・執筆しました。脳卒中・神経疾患・痛みのリハビリに加え、階段昇降や歩行などの生活動作の練習を、完全マンツーマンで提供しています。