突然、肩が痛み始め、徐々に動かしづらくなってきた…そんな経験はありませんか?それは「凍結肩」かもしれません。凍結肩は、専門的には「肩関節周囲炎」とも呼ばれ、日本人の40〜60代の約5人に1人が経験するとも言われている一般的な症状です。
痛みで眠れない夜や、服の着脱ができないほどつらい状態が続くこともありますが、適切なケアと根気強いアプローチで改善できる可能性があります。このコラムでは、凍結肩の原因を詳しく解説し、自宅で安全に行えるストレッチ方法をご紹介します。
凍結肩とは?症状と進行過程
凍結肩は、肩関節の関節包(かんせつほう)という袋状の組織が炎症を起こし、厚く硬くなることで起こります。特徴的な症状として以下が挙げられます。
- 肩の動きに伴う痛み(特に外側や前側)
- 肩関節の可動域(動く範囲)の制限
- 夜間痛(夜中に痛みで目が覚めることも)
- 腕を上げる、後ろに回すなどの動作が困難
凍結肩は通常、以下の3つの段階を経て進行します
炎症期(凍結期)
・突然の痛みが始まり、徐々に肩が硬くなっていく時期(2〜9カ月)
拘縮期(凍結期)
・痛みはやや軽減するものの、肩の動きが最も制限される時期(4〜12カ月)
回復期(解凍期)
・ 少しずつ可動域が回復していく時期(5〜24カ月)
一般的に、凍結肩は適切なケアを行っても完全に治るまでに1~3年かかることもあります。
凍結肩の主な原因と危険因子
凍結肩の正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、以下のような要因が関連していると考えられています。
1. 身体的要因
長期間の肩の不動
・骨折や手術後の固定、長期入院など
過度の使用や微小損傷
・反復動作や無理な姿勢での作業
姿勢の悪さ
・猫背や巻き肩など、肩関節に負担をかける姿勢
2. 全身疾患との関連
糖尿病
・糖尿病患者は凍結肩のリスクが2〜4倍高いとされています
甲状腺機能障害
・特に甲状腺機能低下症との関連が指摘されています
心臓病や肺疾患
・循環器系の問題も関連することがあります
脂質異常症
・コレステロール値の異常も危険因子の一つです
3. その他の危険因子
年齢
・40〜60代に多く見られます
性別
・女性の方がやや発症率が高いとされています
過去の凍結肩の経験
・反対側の肩にも発症するリスクが高まります
最新の研究で分かった凍結肩に関する新知見
最近の研究では、凍結肩と以下の要因との関連が明らかになってきました。
微小炎症マーカー
・特定の炎症物質が凍結肩の早期発見に役立つ可能性
自律神経系の関与
・ストレスと凍結肩の関連性が指摘されています
腸内細菌叢との関連
・全身の炎症状態と腸内環境の関係が注目されています
ビタミンD不足
・特に冬季に発症率が高まる一因として研究されています
自宅でできる効果的なストレッチ方法
凍結肩の改善には、適切なストレッチが非常に重要です。以下のストレッチは段階的に行い、無理のない範囲で実施しましょう。
基本的な注意点
痛みの強い時期(特に炎症期)は無理をしないでください。ストレッチは温めてから行うと効果的なため、入浴後や蒸しタオルで10分程度温めた後に行うのがオススメです。
ストレッチの強さは「気持ち良い痛み」を目安に行い、強い痛みを感じたら中止してください。1回の動作を10〜30秒程度キープし、2〜3回繰り返します。可能であれば1日3回程度行うと効果的です。
1. 振り子運動(ペンデュラムエクササイズ)
これは最も基本的で、痛みが強い時期でも比較的行いやすいストレッチです。
やり方
1)テーブルなどに健側の手をついて体を支えます
2)患側の腕を自然に下げ、小さな円を描くように前後左右にゆっくり振ります
3)徐々に円を大きくしていきます
効果:肩関節の緊張を和らげ、可動域を少しずつ広げます
2. 壁のぼり運動
やり方
1)壁に向かって立ちます(壁から約30cm離れた位置)
2)指先を壁につけ、痛みのない範囲で少しずつ指を壁に沿って上へ「歩かせる」ように動かします
3)到達した一番高い位置で5〜10秒間キープします
4)ゆっくりと元の位置に戻します
効果:前方への挙上動作の改善に効果的です
3. タオルストレッチ(内旋)
やり方
1)タオルを背中の後ろに回します
2)痛みがない側の手でタオルの上端を持ち、痛みがある側の手で下端を持ちます
3)痛みがない側の手で優しく上に引っ張り、痛みがない側の手が背中の上方へ上がるようにします
効果:日常生活で特に使う回旋動作の改善に役立ちます
4. 肩甲骨(けんこうこつ)の動きを促すストレッチ
最近の研究では、肩関節だけでなく、肩甲骨の動きを改善することも凍結肩の回復に重要だと分かってきました。
やり方
1)椅子に座り、両手を太ももの上に置きます
2)肩をすくめるようにゆっくり上げ、5秒キープします
3)次に肩を後ろに引くようにし、5秒キープします
4)最後に肩をリラックスさせて下げ、5秒キープします
効果:肩甲骨周囲の筋肉をほぐし、肩関節の動きをサポートします
凍結肩の予防と日常生活での注意点
凍結肩を予防するためのポイントをご紹介します。
定期的な運動
・肩関節を含む全身運動を週に2〜3回行いましょう
姿勢の改善
・デスクワークが多い方は1時間ごとに姿勢を変え、肩を回しましょう
ストレス管理
・自律神経のバランスを整えることも大切です
持病の管理
・糖尿病や脂質異常症などの基礎疾患の管理を適切に行いましょう
栄養バランス
・抗炎症作用のある食品(青魚、オリーブオイル、クルクミンなど)を取り入れましょう
医療機関を受診すべきタイミング
以下のような場合は、自己ケアだけでなく医療機関での専門的な評価と治療が必要です。
- 夜間痛が強く、睡眠が取れない状態が続く
- 3週間以上痛みや可動域制限が改善しない
- 腕の力が明らかに弱くなった(筋力低下)と感じる
- 肩の外傷後に症状が出現した
- 発熱や全身倦怠感など他の症状を伴う
まとめ
凍結肩は長期間にわたる辛い症状を伴いますが、適切なケアと忍耐強いアプローチで改善する病気です。早期から適切なストレッチを行い、必要に応じて専門家のサポートを受けることで、回復期間を短縮できる可能性があります。自分の体の声に耳を傾け、無理せず少しずつ進めていくことが、凍結肩との上手な付き合い方です。このコラムで紹介したストレッチを参考に、肩の健康を取り戻しましょう。
※このコラムは一般的な情報提供を目的としています。症状がある方は、必ず医師や理学療法士などの専門家に相談することをお勧めします。