はじめに
「あなたの軟骨はすり減っていますよ」と医者に忠告を受けたり、
「サプリメントを飲んで軟骨を増やしましょう」といったCMが流れたりなど、
軟骨について耳にしたり、目にする機会があるのではないでしょうか?
年齢を重ねるに連れて健康や予防に関心が高まっていきます。生活の中で、些細な気づきがちょっとした痛みが病気や怪我の予兆だったりもします。特に、肩関節や股・膝関節周囲に痛みを感じることはありませんか?
今回は、そんな関節に関する軟骨について解説していきます。
軟骨のメカニズム
まず、軟骨とは何かをご存知でしょうか。
軟骨とは骨格の一部に属しており、関節内に存在する滑膜と呼ばれる膜の中に軟骨はあります。軟骨の厚みは0.8~5mm程度で、成人では膝蓋軟骨(半月板)が一番厚さがあります。椎間板、恥骨結合、半月板などの軟骨は、骨と骨とのつなぎ目に存在しており、クッションの役目をしております。ちなみに、栄養障害などに影響を受けやすいため、骨の成長の指標とされたりします。
軟骨は、骨と骨がぶつかることを防ぐのと同時に、大きな力を出す際の緩衝材としての役目を持っています。また、一定の耐久性もあり骨組みとしての役割もあります。
軟骨には水分が60~80%ほど存在しています。また、固形成分の内にコラーゲンが約60%、残りの大部分はプロテオグリカンに分けられます。
コラーゲン:コラーゲンはタンパク質の1種です。コラーゲンの中にも大まかに5種類に分けられており、軟骨の種類によって分類分けされます。
プロテオグリカン:複合糖質と呼ばれる、体内にある物質の中の一つ(糖タンパク質、糖脂質、プロテオグリカン)です。役割としては水分を保持することで、柔軟性、弾性に関与しています。
軟骨自体に痛みは感じない?
動作を行うには必ず関節運動を伴います。
筋肉は骨についており、筋肉が働くことで連動して関節が動き、「椅子から立ち上がって」「歩いて」「階段を登って」などのさまざまな動作ができます。
しかしながら、加齢や激しい運動、仕事や外傷などによって軟骨がすり減ってしまう事があります。骨と骨の緩衝材としての役目があるため、比較的強度に作られている軟骨ですが、消耗することで骨と骨同士がぶつかる状態になります。この状態は変形性関節症とも呼ばれます。
ここでの1つ目のポイントは
軟骨には「神経が存在しない」という点です。
軟骨自体に神経は通っていないため、関節運動を行う際に軟骨自体に痛みや動きを感じる事はありません。メリットとしては、体を動かすごとに痛みを感じる事がないため、さまざまな動作をスムーズに行う事ができます。反対に、デメリットとしては軟骨がすり減ったとしても、それを感じる事ができないという点です。
ではなぜ「膝が痛い」「股関節が痛い」などと感じるのでしょうか。
その答えの1つとして、滑膜(関節を包んでいる膜)の炎症によって、周囲に存在する神経が痛みを感じ取っているからだと言われています。ただし、痛みの原因や感じ方は人それぞれで、原因が特定できない痛みは多く存在します。
軟骨の増えない理由
結論から言うと「軟骨は再生しません」。滑膜に覆われている軟骨は、滑膜内にある滑液から酸素や栄養を補給しています。その栄養を使って回復ができるかというと、それは難しいです。なぜなら、関節軟骨自体に組織修復機能がほとんど無いからです。
ちなみに、「膝に水が溜まる」と言うのは、滑膜内の滑液が増えている状態を指します。本来は滑膜によって滑液は吸収されますが、炎症などによって滑液の吸収が滞ることで、膝に水が溜まります。通常の滑液は1~3mL程度ですが、関節の炎症により30mLまで増加する場合もあります。この滑液に炎症物質が溜まり、体が認識することで痛みとして出現します。
軟骨がすり減りやすい人
消耗品の軟骨ですが、特にすり減りやすい人がいます。
(1)年配の方
年齢を重ねると、全身的に筋力や体力が低下しやすいです。そのため、骨や関節に対するストレスが増加し、関節軟骨の消耗につながりやすいです。
(2)肥満体型・生活習慣病の方
体重増加や運動不足の方は関節軟骨が消耗しやすいとされています。体重を減らすことが負担軽減につながるので、運動や食事内容の改善が求められます。
(3)O脚やX脚の方
脚の変形が見られる方は関節軟骨の消耗が見られやすいです。整形外科などに受診していただきレントゲンを撮影することで、関節軟骨の消耗がより明確に確認できます。
(4)仕事やスポーツをされる方
職種により一定の姿勢を長時間強いられる方や、スポーツで激しい運動をされる方は、関節軟骨への負担も増加しやすい場合があります。姿勢の見直しや、運動方法、動作改善などを見直していただくと良いでしょう。
(5)女性の方
2005~2007年の研究で、40歳以上の変形性膝関節症の有病率は男性 42.6%,女性62.4%であったとされています。女性に関しては、女性ホルモンであるエストロゲンの減少が関係しているとされています。加齢や閉経の影響でホルモンが減少した後、膝などに症状が出る事が多いです。また、男性と比較して全身の筋肉量が少ないことも挙げられます。
軟骨がすり減らないようにするためには
一度の損傷でも軟骨にとっては大きいダメージとなります。関節軟骨の消耗を抑えるためには、どのようなことをしたら良いのでしょうか?
・体重を減らす
→食生活の見直しをしていただき体重を減らしましょう。体重が減ることで体や関節にかかるストレスは軽減します。食べ過ぎや間食をやめましょう。
・運動をする
→運動習慣がない方は全身の筋力低下が見られると思います。特に下半身の筋力低下から関節に負担がかかる場合があります。歩行習慣をつけたり、階段を使用したり、筋力トレーニングをすることも改善につながります。
・専門機関を受診する
→自身の今の状態を把握するには、専門的な知識が必要となります。受診していただいたり、リハビリテーションを利用してご自身にあった対応方法を学ぶことが大事です。運動に関しても相談できるので、自身にあったより良い方法を提案していただけると思います。
さいごに
「軟骨は消耗品で、改善することは難しい」と言われてきましたが、最新の医療では再生医療を用いて関節軟骨の再生が期待されています。新しい治療に伴い選択の幅は広がっていますが、第一は「軟骨を消耗させない」ことかと思います。
日常生活を円滑に送れるように、体のメンテナンスやケア、運動など意識を向けられてはいかがでしょうか。