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人間の柔軟性の限界|新体操選手の180度開脚を理学療法士が検証【2026年版】

2026.02.18

豆知識

人間の柔軟性の限界|新体操選手の180度開脚を理学療法士が検証【2026年版】

新体操の選手が脚を180度以上に開く姿、見たことありますよね。

「人間の体って、あんなに曲がるものなの?」 「自分も練習すれば、あんな柔軟性が手に入るのかな?」

そんな疑問を持った方も多いのではないでしょうか。

実は、人間の関節には「生理的な可動域」というものがあって、無理に動かすとケガのリスクがあるんです。

本記事では、2022年に改訂された最新の関節可動域測定法と令和6年度(2024年度)の体力調査データをもとに、新体操・体操選手の驚異的な柔軟性を理学療法士の視点で科学的に解説します。

「へぇ、そうなんだ」と思える発見がきっとありますよ。


関節可動域(ROM)の基本を知っておこう

関節可動域って何?

関節可動域(ROM:Range of Motion)とは、体の各関節が痛みや傷害なく動かせる範囲のことです。

簡単に言うと、「この関節は、ここまで動きます」という限界を角度で示したものなんです。

例えば、肩を前に上げる動作(屈曲)なら180度、膝を曲げる動作(屈曲)なら130度、といった具合です。

2022年に測定法が改訂されました

関節可動域の測定方法は、日本整形外科学会、日本リハビリテーション医学会、日本足の外科学会の3学会によって定められています。

2022年4月、なんと27年ぶりに大幅な改訂が行われました。

主な変更点は足関節・足部の測定方法ですが、関節可動域の考え方そのものは現在も変わっていません。

一般的な股関節の可動域

では、一般の人の股関節はどのくらい動くのでしょうか?

参考可動域は以下の通りです。

運動方向参考可動域
屈曲0〜125度
伸展0〜15度
外転0〜45度
内転0〜20度
外旋0〜45度
内旋0〜45度

ここで注目したいのが「外転」です。

外転とは、脚を横に開く動作のこと。

一般的には片脚で45度、つまり両脚を合わせて90度が標準的な可動域なんです。


180度開脚の科学的メカニズム

人間は構造上90度しか開けない?

実は、人間の股関節の構造を考えると、脚を横に開く動作(外転)は45度程度が限界です。

両脚を合わせても90度。

「え?でも新体操選手は180度開いてるよね?」

そう思いますよね。実は、ここに科学的な秘密があるんです。

180度開脚を可能にする2つの要素

180度開脚を実現するには、単なる股関節の外転だけでは不可能です。

以下の2つの動きを組み合わせる必要があります。

①股関節の外旋(外側に回す動き)

股関節を外側に回転させることで、大腿骨の出っ張り(大転子)と骨盤がぶつかる位置がずれます。

これにより、さらに脚を開くスペースができるんです。

②骨盤の前傾

骨盤を前に傾けることで、股関節と大腿骨の間にさらに余裕が生まれます。

この2つの動きを巧みに組み合わせることで、構造的な限界を超えて180度開脚が可能になります。


新体操・体操選手の柔軟性の秘密

成長期からの訓練がカギ

新体操や体操の選手が驚異的な柔軟性を持っている理由、それは「成長期からの継続的な訓練」にあります。

成人の骨は骨と軟骨がはっきり分かれていて、軟骨部分は一度すり減ると修復が困難です。

一方、成長期の子どもの骨は全体的にまだ軟らかく、骨と軟骨の境界があいまいです。

この段階で過度な負荷を徐々に与えると、構造自体が少々変形し、本来の可動域よりも関節を動かせる範囲が広がるのです。

まさに「鉄は熱いうちに打て」ですね。

筋力も同時に必要

ここで大切なポイントがあります。

新体操や体操の選手は、ただ柔軟なだけではありません。

過度な柔軟性を支えるための、強靭な筋力も同時に鍛えているんです。

関節を安定させるサポーター(筋肉)が厚いからこそ、極端な可動域でも安全に動作できます。

筋肉量が減ると関節が不安定になり、歩きづらくなったり痛みが出たりするリスクがあります。


一般の方が180度開脚を目指すリスク

無理な開脚は軟骨・靭帯を傷つける

「180度開脚」という言葉、数年前にブームになりましたよね。

でも、実は一般の方が無理に180度開脚を目指すことには、リスクがあるんです。

可動域を超えて無理に関節を動かそうとすると、以下のような組織を傷つけてしまいます。

  • 軟骨:関節のクッションの役割
  • 靭帯:骨と骨をつなぐ組織

典型的な例が「捻挫」です。

捻挫とは、外部からの圧力によって関節可動域を超えて関節が動いてしまい、靭帯を損傷した状態のこと。

180度開脚も、無理に行えば同じような損傷のリスクがあります。

90度で十分、という考え方

専門家の間では、「横方向に開脚した場合、股の間の角度は90度ほどあれば柔軟性は十分」という見解が一般的です。

もちろん個人差はありますし、大腿骨頸部や大腿骨骨頭を骨折したことのある方は可動域が狭くなっていることが多く、無理に開こうとする必要はありません。

180度開脚によって直接的に「脚のむくみがとれる」「脚が細くて美しくなる」「歩くのがラクになる」といったメリットがあるのであれば目指す価値がありますが、現在そのようなことは科学的に証明されていません。

軟骨や靭帯を損傷するリスクがあるのに、メリットがないことをやろうと思う人はいませんよね。


柔軟性を測定する体力テスト

長座体前屈で柔軟性を測定

日本では、スポーツ庁による「体力・運動能力調査」で国民の柔軟性が測定されています。

令和6年度(2024年度)の調査は2024年12月に公表されたばかりです。

柔軟性の測定には「長座体前屈」という種目が使われています。

これは、床に座って脚を伸ばした状態で、どれだけ前に体を倒せるかを測定するものです。

柔軟性は年齢とともに低下する

体力調査のデータを見ると、柔軟性は年齢とともに徐々に低下していく傾向があります。

特に、以下の要因が柔軟性の低下に関係しています。

  • 加齢による筋肉の硬化
  • 運動不足
  • デスクワークなど同じ姿勢を続ける生活習慣

だからこそ、日常的に適度なストレッチを行うことが大切なんです。


日常生活に必要な柔軟性とは

腸腰筋のストレッチが重要

一般の方には180度開脚は必要ありませんが、適度な柔軟性は必要です。

体全体をバランス良くストレッチしていただきたいですが、特に念入りに行ってほしい部位があります。

それが「腸腰筋」です。

腸腰筋とは、骨盤と大腿骨、腰椎を結ぶ筋肉群で、歩くときなどに脚を持ち上げる動作で働く場所です。

加齢とともに硬くなりやすく、腸腰筋が硬くなると骨盤が前傾して前かがみになり、いわゆる”老化姿勢”になってしまいます。

日常動作に必要な可動域を確保する

柔軟性は、「どれだけ曲がるか」よりも「日常生活に必要な動作ができるか」が重要です。

例えば、以下のような動作に必要な可動域を確保できていれば十分です。

  • しゃがむ動作(トイレ、掃除など)
  • 階段の上り下り
  • 靴下を履く動作
  • 振り返る動作

関節可動域制限は、参考可動域との比較よりも、動作に必要な可動域が確保されているかが重要なんです。


安全なストレッチの方法

ゆっくり、痛みのない範囲で

ストレッチを行う際の基本的な注意点をお伝えします。

【ストレッチの基本ルール】

  1. 痛みのない範囲で行う
    • 「痛気持ちいい」程度が目安
    • 痛みを感じたらすぐに中止
  2. ゆっくりと伸ばす
    • 反動をつけない
    • 呼吸を止めない
  3. 最低でも15〜30秒キープ
    • 短時間では効果が薄い
    • じわじわと伸びる感覚を大切に
  4. 毎日続ける
    • 柔軟性は日々の積み重ね
    • 無理のない範囲で習慣化

避けるべきストレッチ

以下のようなストレッチは避けましょう。

❌ 誰かに背中を押してもらう(力加減が難しい) ❌ 痛みを我慢して無理に伸ばす ❌ 反動をつけて勢いよく伸ばす ❌ 準備運動なしでいきなり最大限伸ばす

過度な力で行うと、筋肉を傷めるだけでなく、骨折や関節の脱臼を引き起こすこともあるので要注意です。


コントーショニストの世界

極限の柔軟性を追求する芸術

コントーショニスト(柔軟芸人)は、人体の柔軟性を極限まで追求したパフォーマーです。

新体操選手以上の柔軟性を持ち、信じられないような姿勢をとることができます。

  • 後方に反り返って頭と足をつける
  • 体を箱の中に収める
  • 脚を頭の後ろに回す

これらは、幼少期からの徹底した訓練と、特殊な体質(関節の柔軟性が極めて高い)の組み合わせによって可能になります。

一般の方は目指すべきではない

コントーショニストのような極限の柔軟性は、芸術的でありパフォーマンスとして素晴らしいものです。

しかし、一般の方が目指すべきものではありません。

理由:

  • 関節の安定性が著しく低下するリスク
  • 軟骨・靭帯の損傷リスク
  • 日常生活にメリットがない
  • 専門的な指導なしでは危険

観て楽しむものと、自分が実践するものは別、と考えるのが賢明です。


まとめ

新体操や体操選手の柔軟性について、理学療法士の視点で解説しました。

この記事のポイント

✓ 一般的な股関節外転は片脚45度、両脚で90度が標準 ✓ 180度開脚には股関節外旋と骨盤前傾が必要 ✓ 新体操選手は成長期からの訓練で構造が変化している ✓ 一般の方が無理に180度を目指すとケガのリスクあり ✓ 日常生活には90度の柔軟性で十分 ✓ 腸腰筋のストレッチが特に重要 ✓ 痛みのない範囲で、ゆっくり続けることが大切

今日からできること

まずは、日常生活の中で軽いストレッチを取り入れてみましょう。

  • 朝起きたときに全身を伸ばす
  • デスクワークの合間に腰を伸ばす
  • お風呂上がりに腸腰筋をストレッチ

無理なく続けることが、柔軟性を維持する一番の方法です。

専門家に相談するタイミング

もし以下のような状況があれば、理学療法士などの専門家に相談してみましょう。

  • ストレッチをしても痛みが続く
  • 日常動作に支障が出ている
  • 関節の動きが極端に制限されている
  • 自分に合ったストレッチ方法を知りたい

一人ひとりの体の状態に合わせた、適切なアドバイスを受けることができます。


よくあるご質問

Q1. 柔軟性は年齢に関係なく向上しますか?

A. 向上はしますが、限界があります。

若い頃に比べると時間はかかりますが、適切なストレッチを続けることで柔軟性は改善します。

ただし、骨の構造は成長期を過ぎると大きく変化しないため、新体操選手のような極端な柔軟性を獲得するのは困難です。

「今よりも柔らかくなる」ことを目指しましょう。

Q2. ストレッチは毎日やらないとダメですか?

A. 毎日でなくても大丈夫です。

週2〜3回でも、継続することで効果は現れます。

大切なのは「続けること」です。

無理のないペースで、長く続けられる習慣を作りましょう。

Q3. ストレッチの適切な時間帯はありますか?

A. お風呂上がりがおすすめです。

体が温まっていると、筋肉が伸びやすく、ケガのリスクも低くなります。

朝起きたときや運動後も良いタイミングですが、体が冷えている状態では軽めの準備運動から始めましょう。

Q4. 開脚の角度はどうやって測ればいいですか?

A. 角度計を使うか、目安として確認できます。

正確に測るには角度計(ゴニオメーター)が必要ですが、日常的には以下のような目安で十分です。

  • 90度:両脚が直角(L字)に開いている
  • 120度:斜めに開いている
  • 180度:両脚が一直線

無理に測定する必要はなく、「今より少し柔らかくなった」という感覚が大切です。

Q5. 体が硬いことで健康上の問題はありますか?

A. 日常動作に支障がなければ基本的に問題ありません。

ただし、極端に硬い場合は以下のリスクがあります。

  • 転倒しやすくなる
  • 腰痛や肩こりの原因になる
  • 姿勢が悪くなる
  • ケガをしやすくなる

健康維持のためには、適度な柔軟性を保つことが推奨されます。


📚 参考文献

  1. 日本整形外科学会、日本リハビリテーション医学会、日本足の外科学会. 関節可動域表示ならびに測定法. 2022年4月改訂.
  2. 厚生労働省. e-ヘルスネット:関節可動域/ROM. https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/
  3. スポーツ庁. 令和6年度体力・運動能力調査. 文部科学省, 2024.
  4. 日本理学療法士協会. 関節可動域表示ならびに測定法改訂に関する告知. 2022.
  5. 園部俊晴(編著), 奈良勲(監修). 関節可動域:臨床現場に活かすROMの実践書. 運動と医学の出版社, 2023.

執筆者情報

理学療法士

本記事は、2022年改訂の関節可動域測定法および令和6年度(2024年度)体力・運動能力調査の最新データに基づいて作成しています。


免責事項

本記事の情報は一般的な内容です。
個人の状態により適切な方法は異なります。

持病のある方、運動制限のある方は、医師にご相談ください。

症状が改善しない場合や悪化する場合は、速やかに医療機関を受診してください。

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