入院1週間で筋力は何%落ちるのか?廃用症候群を理学療法士が数値で解説【2026年版】
2026.03.09
リハビリ
💡 この記事について
本記事は2026年3月時点の最新情報に基づく一般的な健康情報です。個別の症状や治療に関する医学的アドバイスではありません。症状に不安がある場合は、必ず医療機関を受診してください。
目次
- 「安静にしていれば治る」は、もう古い
- 廃用症候群とは?ベッドが敵になる日
- 数値で見る筋力低下の恐怖〜1週間で何%落ちるのか〜
- 入院生活のリアル〜こんな場面で気づく体の衰え〜
- 筋力だけじゃない!廃用症候群が全身に及ぼす影響
- 「回復」に必要な時間は、低下の何倍か
- 早期離床・院内リハビリが重要な理由
- 入院中・退院後にできること
- こんな症状が続くなら、専門家に相談を
- よくある質問(FAQ)
- まとめ
- 免責事項
- 参考文献
- 執筆者情報
「安静にしていれば治る」は、もう古い

「入院したら、ゆっくり休んで体を治す」。
そう思っている方は多いのではないでしょうか。
実は、その「ゆっくり休む」が、体にとって大きなリスクになることがあります。
病気やケガで入院し、ベッドの上で安静にしている間。 体の中では、じわじわと筋肉が失われています。
1週間で約10〜15%。 3〜5週間で約50%。
これは誇張でも脅しでもなく、複数の研究機関が報告している数値です(※1、※2)。
この記事では、理学療法士の視点から「入院中に何が起きているのか」を数値とともに分かりやすく解説します。
入院したことがない方にも、体の変化がリアルにイメージできるよう書きました。
廃用症候群とは?ベッドが敵になる日
「廃用症候群(はいようしょうこうぐん)」という言葉を聞いたことはありますか?
「生活不活発病」とも呼ばれます。 過度な安静や活動量の低下によって、体と心のさまざまな機能が低下する状態です(※1)。
骨折で入院した、肺炎で入院した、手術後に安静を指示された。
こうしたきっかけで体を動かせない時間が続くと、筋肉・骨・関節・内臓・脳、あらゆる機能が衰えはじめます。
なぜ、動かないと体が衰えるのか
人間の筋肉は「使われなければ、不要なもの」と判断します。
筋肉を維持するには、最大筋力の30%以上の活動が必要とされています(※2)。 20%以下の活動しかない状態が続くと、筋力の低下が始まります。
ベッドで寝ている状態では、この活動量が著しく不足します。 筋肉を作るタンパク質の合成が減り、分解が進む。 これが「廃用性筋萎縮(はいようせいきんいしゅく)」の正体です。特に影響を受けやすいのが、抗重力筋(こうじゅうりょくきん)と呼ばれる筋肉です。 大腿四頭筋(太もも前面)、殿筋群(お尻)、腓腹筋(ふくらはぎ)。 立ったり歩いたりするために重力に抗して働く筋肉ほど、寝た状態では使われません。 そのため、真っ先に衰えていきます(※2)。
数値で見る筋力低下の恐怖〜1週間で何%落ちるのか〜
では、具体的な数値を見てみましょう。
安静臥床による筋力低下の速度
| 期間 | 筋力低下の目安 |
|---|---|
| 1日 | 約1〜3% |
| 1週間 | 約10〜15% |
| 2週間 | 約20〜36% |
| 3〜5週間 | 最大約50% |
(参考:健康長寿ネット・酒井医療株式会社 廃用症候群資料 ※1・※2)
1日で1〜3%というと、ピンとこないかもしれません。
「10kgのダンベルを持ち上げられる人が、1週間の安静で8.5〜9kgしか持ち上げられなくなる」。 そのくらいのイメージです。
高齢者の場合はさらに深刻です。 2週間の床上安静だけで、下肢の筋肉が約20%萎縮するとも言われています(※1)。
入院生活のリアル〜こんな場面で気づく体の衰え〜

「数字を見てもピンとこない」という方に向けて、入院生活の実際の場面で考えてみましょう。
【場面1】退院当日の朝、ベッドから起き上がる
1週間の入院後、いよいよ退院の朝。
起き上がろうとした瞬間、腕と腹筋に力が入らず、もたつく。 「あれ、こんなに重かったっけ」と感じながら、手すりを借りてやっと起き上がる。
入院前は何も考えずやっていた動作なのに。
これが廃用症候群の始まりです。
【場面2】病院の廊下を歩く
点滴のスタンドを押しながら、病棟の廊下を歩こうとする。
10メートルも歩かないうちに、太ももがだるくなる。 足元がふらつく感じがして、手すりに手を伸ばす。
「こんなはずじゃなかった」。 ほんの1〜2週間前まで、駅の階段を駆け上がっていたのに。
【場面3】退院後、自宅の階段を前に立ちすくむ
退院して自宅に帰ってきた。
玄関から2階の寝室まで、いつもの階段。 なぜか足が上がらない。手すりに全体重を預けながら、一段一段上がる。
家族に「大げさ」と思われたくなくて、黙って額に汗をかいている。
こうした体験は、決して「高齢者だけの話」ではありません。
20代・30代の若い人でも、1〜2週間の入院で同様の変化が起きます。 高齢になるほど、変化は急速かつ深刻になります(※1)。
筋力だけじゃない!廃用症候群が全身に及ぼす影響
廃用症候群は、筋力低下だけにとどまりません。 全身のさまざまな機能に影響します(※2・※3)。
運動器への影響
- 筋萎縮:筋肉が細くなり、力が出にくくなる
- 関節拘縮(かんせつこうしゅく):関節が固まり、動かせる範囲が狭くなる
- 骨萎縮:骨がもろくなり、骨折リスクが上がる
循環・呼吸器への影響
- 心機能低下:心臓から1回に送り出す血液量が6〜13%減少する(※4)
- 血栓リスク上昇:血流が悪くなり、深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)のリスクが高まる
- 誤嚥性肺炎のリスク:飲み込む力(嚥下機能)が弱まり、肺炎を起こしやすくなる
精神・神経への影響
- 抑うつ・意欲低下:活動量の減少が気分の落ち込みにつながる
- せん妄(軽度の意識混濁):特に高齢者で、入院中に混乱した言動が現れることがある
- 見当識障害:今いる場所や時間が分からなくなる
体を動かさないということは、「筋肉が落ちる」だけでなく、心臓も、肺も、脳も、同時に弱っていく。
そのことを、ぜひ頭の片隅に置いておいてください。
「回復」に必要な時間は、低下の何倍か

ここが、廃用症候群の最も恐ろしい側面です。
失うのは早く、取り戻すのは時間がかかります。
一般的に、1日の安静による筋力低下を取り戻すには1週間が必要とされています(※2)。
つまり、1週間入院してベッドにいた場合。 その筋力を完全に取り戻すには、7週間以上かかる可能性があります。
高齢者はさらに非対称
この「失いやすく・戻りにくい」という傾向は、高齢になるほど顕著になります。
加齢によって、筋肉を作る能力(筋タンパク合成能力)がもともと低下しているためです。
若い頃は「1週間寝込んでも、退院後少し動けばすぐ元通り」と感じたかもしれません。 60代・70代以降では、同じ期間の臥床でも、回復には何倍もの時間と努力が必要です。
⚠️ 「退院したらゆっくりリハビリしよう」では、遅い可能性があります。 体の回復は、できるだけ早くから動き始めることが重要です。
早期離床・院内リハビリが重要な理由
「なるべく早く体を動かす(早期離床)」は、今や医療の常識です。
以前は「術後や発症後は安静が第一」とされていた時代がありました。 しかし現在は、医学的に許可される範囲でできるだけ早く離床することが推奨されています(※5)。
国の政策も「早期リハビリ」を後押し
2024年度の診療報酬改定では、早期リハビリへの取り組みを評価する加算が新設されました(※6)。
- 急性期リハビリテーション加算:入院後14日以内の早期介入を評価
- 早期リハビリテーション加算:入院後30日以内の介入を評価
さらに2026年度の改定では、「発症から3日以内のリハビリ介入」を要件化する方向での議論が進んでいます(※6)。
これは、国が「入院したら早く動け」というメッセージを制度として打ち出しているということです。
なぜ早期離床が効果的なのか
- 筋力低下を最小限に抑えられる
- 血栓のリスクが下がる
- 肺活量の低下を防ぐ
- せん妄の発症率が下がる(特に高齢者)
- 在院日数が短縮し、自宅退院率が上がる(※5)
「動くことが、治療の一部」。 リハビリは「病気が治ってからするもの」ではなく、治療と並行して行うものになっています。
入院中・退院後にできること
では、具体的に何をすればよいのでしょうか。
⚠️ 以下の内容は一般的な情報です。実施の可否は必ず担当医・理学療法士にご確認ください。症状や疾患によっては、適切でない場合があります。
入院中(ベッド上でできること)
体を動かすことの許可が出た範囲で、以下を試みることが有効とされています。
- 足首の上下運動(足関節の背屈・底屈):血流を促し、血栓予防にも役立つ
- 膝の曲げ伸ばし:大腿四頭筋の萎縮を防ぐ
- 手を握る・開く:上肢の機能維持に役立つ
- ベッドの頭部を上げて座位をとる:体を起こすだけでも抗重力筋への刺激になる
- 声を出す・会話をする:嚥下機能・認知機能の維持につながる
何より大切なのは「体を起こす」こと。 横になっている時間を少しでも減らすだけで、廃用症候群のリスクは大きく変わります。
退院後(日常生活での注意)
- 「退院したから安心」ではなく、体はまだ回復途上であることを認識する
- 最初は疲れやすいため、無理をしすぎず、少しずつ活動量を増やす
- 転倒リスクが高まっているため、自宅の段差・浴室などの環境を確認する
- 定期的に体を動かす習慣を早めに作る
こんな症状が続くなら、専門家に相談を
退院後、以下のような状態が続いている場合は、早めに医療機関や理学療法士に相談することをおすすめします。
- 退院後2週間以上経っても、歩くのがつらい・すぐ疲れる
- 階段の昇り降りが退院前より明らかに難しくなった
- 転倒しそうになることが増えた
- 気力がわかない・家から出たくない気持ちが続く
- 入院前と同じ日常生活に戻れていない
「もう少し様子を見よう」と思いがちですが、廃用症候群は早く対処するほど回復が早くなります。
病院でのリハビリ期間が短く「もっとしっかりリハビリしたい」と感じている方。 自費リハビリという選択肢もあります。 保険の制約を受けず、必要な時間・内容のリハビリを集中的に受けられます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 廃用症候群は若い人でもなりますか?
A. なります。廃用症候群は年齢に関係なく起こります。ただし、高齢になるほど進行が速く、回復にも時間がかかる傾向があります。
Q2. 入院中に体を動かしてもよいのでしょうか?
A. 担当医の許可がある範囲で、積極的に体を動かすことが現在の医療の常識になっています。何ができるかは症状・疾患によって異なりますので、必ず担当医・看護師・理学療法士に確認してください。
Q3. 退院後、どのくらいで元の体に戻りますか?
A. 個人差が大きく、一概には言えません。1週間の安静で生じた筋力低下を取り戻すのに、7週間以上かかることもあるとされています。早期から適切なリハビリを行うほど、回復は早まる可能性があります。
Q4. 病院でのリハビリは毎日できますか?
A. 保険診療のリハビリは、疾患の種類や病期によって算定できる日数・単位数に上限があります。「もっとリハビリをしたい」と感じる場合は、自費リハビリの利用を検討することも一つの方法です。
Q5. 廃用症候群は完全に予防できますか?
A. 疾患や治療の内容によっては、安静が必要な場合もあります。完全な予防は難しいこともあります。 しかし、早期に体を動かす取り組みを行うことで、進行を最小限に抑えることが可能とされています(※5)。
Q6. 高齢の家族が入院しています。面会時に何かできることはありますか?
A. 声をかけて会話をすること自体が、認知機能・精神機能の維持に役立ちます。また、「動くことは大切」とポジティブに伝えることで、患者本人の意欲が高まりやすくなります。具体的なケアについては、担当の看護師・理学療法士に相談してみてください。
Q7. 自費リハビリと保険リハビリの違いは何ですか?
A. 保険リハビリは、疾患の種類や病期によって実施できる内容・日数に制限があります。自費リハビリは保険の制約を受けないため、必要な内容を必要な分だけ実施できます。担当医や理学療法士と相談の上、自分に合った方法を選ぶことをおすすめします。
まとめ
この記事のポイントをまとめます。
- 安静臥床により、筋力は1週間で約10〜15%低下する
- 失うのは早く、取り戻すには数倍の時間がかかる
- 廃用症候群は筋力だけでなく、心臓・肺・脳・精神にも影響する
- 今の医療では「早期離床・早期リハビリ」が常識であり、国の制度としても推進されている
- 退院後も体の回復には時間がかかるため、できるだけ早くリハビリを始めることが重要
「入院したらゆっくり休む」という時代は終わっています。
動けるなら、早く動く。 動けなくても、できることから始める。
退院後に「なんとなく体が戻りきっていない」と感じている方、もっとしっかりリハビリしたいと思っている方は、専門家への相談を検討してみてください。
体の回復は、諦めるには早すぎます。
免責事項
記事の目的と性質
本記事は、廃用症候群および入院中の筋力低下に関する一般的な健康情報を提供することを目的としています。理学療法士の専門的視点から、科学的根拠に基づいた情報をわかりやすく解説していますが、以下の点にご注意ください。
本記事の限界
- 個別診断の代替不可: 本記事の情報は、あなた個人の症状や状態に対する診断・治療を提供するものではありません
- 医療行為ではない: 記事内容は医療行為や医学的助言ではなく、一般的な情報提供です
- 自己判断のリスク: 本記事の情報のみに基づく自己判断や自己治療は、症状の悪化や重大な健康被害につながる可能性があります
医療機関受診の推奨
以下の場合は、必ず医療機関を受診してください:
- 入院後・退院後に症状が悪化している場合
- 倦怠感・筋力低下・ふらつきが2週間以上続く場合
- 日常生活に支障が出ている場合
- 持病や既往歴がある場合
- 高齢者や妊娠中の方
医師や理学療法士などの専門家による適切な診断と治療を受けることが最も重要です。
情報の正確性について
本記事は2026年3月時点の最新情報に基づいて作成されており、信頼できる医学的根拠や公的ガイドラインを参照しています。しかし、医学・医療情報は常に更新されており、将来的に内容が変更される可能性があります。
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参考文献
- 公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット. 廃用症候群. 2023.
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/rounensei/haiyo-shokogun.html - 酒井医療株式会社. 廃用症候群(不動・廃用症候群の基礎知識). 2023.
https://www.sakaimed.co.jp/knowledge/elderly-people-rehabilitation/rehabilitation/reha03/ - 東京都保健医療局. 廃用症候群(廃用症候群の要因と症候・管理の手引き). 2022.
https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/hokeniryo/siryou162 - LIFULL介護. 廃用症候群とは?症状・原因とリハビリまで網羅的に解説. 2024.
https://kaigo.homes.co.jp/manual/healthcare/sick/haiyoshokogun/ - 日本集中治療医学会. 集中治療における早期リハビリテーション〜根拠に基づくエキスパートコンセンサス〜. 2018.
https://www.jsicm.org/pdf/soki_riha_1805.pdf - GemMed(データが拓く新時代医療). 「より早期のリハビリ実施」に向け、急性期リハ加算・早期リハ加算で「発症から3日までの介入」など要件化. 2025年11月.
https://gemmed.ghc-j.com/?p=70906
執筆者情報
本記事は、理学療法士の専門的視点から作成しました。廃用症候群の予防と早期リハビリテーションに関する科学的根拠に基づいた情報提供を心がけています。